「我愛羅くん疲れたでしょ?そろそろお昼だし、ご飯にしよっか?」
「うんっ、」

おもちゃ屋を後にしてから向かった場所には飲食店が建ち並ぶ。適当に選んだお店に入り向かい合うように席に着けば、我愛羅くんはクマのぬいぐるみが入った荷物を大事そうに抱えたまま座っていて。そんな我愛羅くんを見ていると、あの店に置いてあったクマのぬいぐるみは冗談抜きでやっぱり全部買い占めるべきだったかな、なんて思う。

「我愛羅くんどれにする?」
「えっと…コレにするっ、」

テーブルの上に広げたメニューを見て我愛羅くんが指を指したのは、お子様向けのハンバーグ。しかもおもちゃ付き。もしかしてハンバーグよりおもちゃに惹かれたのかなーなんて勝手に解釈していまい、思わず笑みが零れる。自分のと我愛羅くんの食事を注文してからしばらくすると、テーブルまで運ばれてきたパスタとお子様ランチ。何年ぶりに見たんだろう旗が刺さったライス、昔はこの旗が刺さったライスで大喜びしたものだけど。男の子用のおもちゃの中で我愛羅くんが選んだのは飛行機のおもちゃ(女の子用は可愛らしい人形)で、それを受け取った我愛羅くんはご満悦な様子だった。

どこからどう見ても普通の男の子にしか見えない彼が砂隠れの里の皆から恐れられてる理由とは、"化け物"と呼ばれてる理由とは一体何なんだろう。その理由を知っておきたいところなんだけど、果たして我愛羅くんが素直に話してくれるかどうか。同じ屋根の下で暮らし始めて私に慣れてきたとは言え、まだ数日しか経ってないし完全に打ち解けたとは言えないし。その上私が知りたいその部分は我愛羅くんにとってとてもデリケートな部分だろうし、触れてほしくない部分かもしれない。知ってるようで全く知らない、我愛羅くんの事。悶々と思考を廻らせながらパスタをフォークに巻いていると、ハンバーグを口に含んだ我愛羅くんと視線がかち合う。何を思ったのか我愛羅くんは口に含んだそれを飲み込んでから、ゆっくりと口を開く。

「…ねえ、××。」
「、うん?」
「…初めて××に会った時、××は僕のこと恐くないって、言ってくれた、よね」
「うんうん言ったねえ。だって全然恐くないもん。むしろ可愛いっていうか萌え…いや、気にしないで何でもない」
「?、…僕、うれしかった。××がそう言ってくれて。すごくうれしかったんだ、」
「…我愛羅くん、」
「だから、ね。××にも僕のこと…知って、ほしい、」
「…っ!」

少し不安の色を含んだ綺麗な緑色の瞳は伏せられ、フォークを握る小さな手は力が込められたのか少し奮えて、だんだんと小さくなった語尾。他人と関わりたくても関われなくて恐れを抱いていただろう彼が、自分の事を他人である私に話してくれようとしている。私が「知りたい」と思ったのを感じ取ったんだろうか。子供って感情に敏感だからなあ、特に我愛羅くんの場合は。我愛羅くんは今この瞬間にどれだけの勇気を振り絞ったんだろう。この子が振り絞ったその勇気に、私もちゃんと応えなくては。

「…うん、私も我愛羅くんのこと知りたいな、もっと。」
「、××、」
「たくさん聞かせてほしいな、我愛羅くんの話」
「っ、うん……っ」

綺麗な緑色はゆらゆらと不安げに揺れながらも私を信じてくれているようで、我愛羅くんはぽつぽつと口を動かし始めた。



どれだけの時間が経っただろう。我愛羅くんの口から恐る恐る紡がれた話はお伽話か映画の話でも聞いているかのようで。私には想像も出来ない非現実的な話だったけど、彼にとっては全て現実で。
非現実的過ぎて頭が混乱しつつあるけど、我愛羅くんの話によると彼の中には一尾である"シュカク"という膨大な力を持つ化け物がいて、砂隠れの里の"兵器"のような存在で、その膨大な力を制御しきれないが故に人を傷付けてしまう。その力は彼をゆっくりと眠らせる事もせず、彼の目の周りが黒く縁取られているのはその力のせいだとか。
その膨大な力を恐れて里の者は彼に近付かない、唯一彼に近付く者が居るとすればそれは暗殺者。…なんて酷い話なんだろう、そう思う半面、我愛羅くんにこの力を取り入れた砂隠れの里の人たちは里の為を想ってるからそうしたんだろうと思ったら、それはとても複雑で。沢山の人の為に一人が犠牲になる、それはどんな世界でもよくある話なんだろうけど、こんなに小さな子がそれを背負いきれるはずもなく、背負えないのなら里を脅かすだけの存在の彼を排除しようとする。
いくら里の為だとしても、そんなのはあんまりじゃないか。この子は何もしてないのに。まだこんなに小さいのに。だけど、我愛羅くんの話を聞いて唯一安心出来たのは"夜叉丸"という人が我愛羅くんの傍に居てくれてる事。どれだけ辛くても苦しくても彼が"人を信じる事"を忘れないでいるのは、その人の存在のおかげなんだろう。きっと我愛羅くんは夜叉丸さんを信じているから。話し終えた我愛羅くんは今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべ、こちらをじっと伺っている。不安、悲しみ、苦しみ、寂しさ、色んな色が入り混じったゆらゆらと揺れる緑色。

そんな彼を見ていたら恐ろしさよりも何よりも、愛しさやら切なさが溢れんばかり。辛かったね、悲しかったね、苦しかったね、寂しかったね。だけどもう大丈夫、私はいつでもキミの味方だから。キミの悲しみも苦しみも全部全部、私が受け止める、から。

だから、

「…我愛羅くん、」
「っ……?」
「今日の夜ご飯はタン塩ねっ!今日たくさん歩いたから、ご褒美だよご褒美!」
「っ、××っ……」
「帰りにスーパー寄ってタン塩買って帰ろう、ね。」
「…っ、うんっ、」

もう、一人で抱え込まなくていいんだよ。

(嬉しい事も悲しい事も、色んな事をこれからキミと分かち合えるといいな、)




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