ああ、どうしよう。あの服もこの服も我愛羅くんに似合いそう。という訳で我愛羅くんに試着してもらおうと思う。

「我愛羅くん次はこれ、この服ね!」
「え、う、うんっ、」

試着室へ入ったり出たり大忙しの我愛羅くん。さながらファッションショーのようなこの図。試着室から出てくる時の我愛羅くんは恥ずかしいのかおずおずとしながらも顔だけをひょこっと出すもんだから、その光景に頬がゆるゆると緩む。っていうか全身を見せなさいよ全身を。我愛羅くんを見ていると気付いたら口角が上がってしまうから困る。いちいちかわいい奴だな畜生。私を悶えさせてどうするつもりなの!我愛羅くんに試着してもらった結果はどっちも似合ってた訳だけど、値段を見て普通にビビる。子供服って何気に高いんだなあ。まあ日用品は百均に行けば揃えれるだろうし、ここは両方買いでしょ、うん。
我愛羅くんに試着してもらった服をレジまで持っていき会計を済ませてから店を出た。片手に荷物、反対側は我愛羅くんと手を繋いだままぶらぶらとショッピングモールを練り歩いていると、色んなおもちゃが並んだお店がふと目に入る。我愛羅くんもおもちゃとかが欲しい年頃だよなーなんて考えながら足を止めると、不思議そうな表情を浮かべ私を見上げてくる我愛羅くんと目が合った。

「我愛羅くん、おもちゃとか欲しくない?何か欲しいのあったら選んでおいでよ!」
「えっ、でもっ…、」

困ったように目を伏せながらも、チラチラとおもちゃに気を引かれてる我愛羅くんの瞳はなんだか興味深そう。まだまだ遠慮しがちな我愛羅くんだけど、まだこんなに小さい子供だし好奇心ってやつには勝てないだろう。そもそも我愛羅くんはこんな年頃の子供には必要がないのに、どこか気を遣いすぎな所があるんだよね。それは砂隠れの里での生活のせいもあるのかもしれないけど。気を遣い過ぎていい子過ぎて子供らしくないように見えるけど、逆にそこが1番彼の子供らしい所でもある。そんな彼にだからこそ、もっともっと頼ってほしい。たくさん甘えてほしい。

「遠慮はナシだよ我愛羅くん。んーそうだなあ…初めて二人でお出かけした記念って事で、ねっ!」
「…っ!い、いいの…?」
「うん、いいよ!じっくり好きなの選んじゃいなさい!」
「う、うん…っ!」

嬉しそうに頷いた我愛羅くんは目を輝かせながら店内をくるりと見回す。首をキョロキョロと動かしながらおもちゃを手に取って眺めたりするその様は、歳相応な男の子って感じがした。それはそれは、本当に彼は忍者なのかと思ってしまうくらい。我愛羅くんはどんなおもちゃを持ってくるだろう。乗り物に興味を示してたから車とか電車とか乗り物系のおもちゃかな、それとも怪獣系かロボット系のおもちゃかな。
お目当ての物が見つかったのか、しばらくして戻ってきた我愛羅くんの手元には私が全く予想していなかった物が収まっていた。全く予想してなかったんだけど、我愛羅くんが手に持ったそれがまた不思議と彼に似合ってる気がするのはどうしてだろう。

「コレの、どっちかがいい」

おずおずとしながら両手で差し出してきた、オッサンみたいにグッタリとして背中にファスナーが付いてるクマのぬいぐるみと、赤い服を着た蜂蜜が大好きなクマのぬいぐるみ。ぬいぐるみなのはいいとしてどちらにしろ「クマ」という我愛羅くんのそのチョイス。我愛羅くん、クマさん好きなのかな。本人はパンダっぽいけど。

「どっちも可愛いクマさんのぬいぐるみだねー!どっちがいーい?」
「、××に、決めてもらおうと思って、」
「えっ、私が選んじゃったらダメじゃん。我愛羅くんのなんだから!我愛羅くんはどっちがいい?」
「うん、えっと…、」

オッサンみたいなグッタリとしたクマと赤い服を着たクマを交互に眺めながら真剣に悩む我愛羅くん。
悩んだ末とうとう選びきれないのか2つのぬいぐるみをぎゅうっと抱き抱えた。くっそ可愛いなちくしょう。

「あ、じゃあ悩んだ時は両方にするといいよ、ねっ!」
「っ!…ふたつともっ…?」
「うん。どっちかだけってのも淋しいからね。両方買っちゃおう!」
「で、でも、」

何処までも遠慮がちな我愛羅くんにふっと少し苦笑いを零す。まだこんなに小さいのに色々と抱え込んでるんだろうなあ、この子は。優し過ぎて純粋過ぎて…そこがまた彼のいい所なんだけど。

「我愛羅くん忘れたの?私をお母さんだと思ってねって。子供はお母さんに甘えていいんだよ」

っていうか思いっきり甘えちゃいなさい、言いながらぐしゃりと我愛羅くんの頭を撫でれば一瞬目を丸くさせてから、にっこりと笑ってこくりと頷いた。うわ、最近は少しずつ笑顔を見せてくれるようになった我愛羅くんだけど、こんな笑顔は初めて見たかもしれない。私が勝手に企てた「我愛羅くんを笑顔にしよう計画」はいい傾向に向かってるんじゃないか。この調子でどんどん行くぞ、私。

「はい我愛羅くん、お出かけ記念のプレゼント!でも重たいから私が持つね?」
「、ううん、僕が持つよ!」
「そう?大丈夫?」
「うん、大丈夫…!」

私の手からぬいぐるみが入った荷物を受け取った我愛羅くんは、それを大事そうに両手でぎゅっと抱き抱える。その時の我愛羅くんの本当に嬉しそうな顔を、私は見逃さなかった。クマのぬいぐるみで我愛羅くんがこんなに喜んでくれるなら、お姉さんこの店のクマのぬいぐるみを全部買い占めてやろうかしら。

「、ねえ××、」
「ん?なーに?」

首を傾げながら我愛羅くんを見つめると照れ臭そうに俯いてから顔を上げ、またにっこりと笑った我愛羅くんから降ってきたのは「ありがとう、」という言葉。本日2回目の我愛羅くんの笑顔に私の心臓はズドンと打ち抜かれました。

(キミが笑うと私も嬉しい、)




- ナノ -