我愛羅くんと手を繋ぎながら向かう先は駅。車でもよかったんだけどペーパードライバー気味な私が運転する車に我愛羅くんを乗せるのはとても危険だから、近くの駅まで歩いてそこから電車でショッピングモールまで向かう。駅まで歩いている間に我愛羅くんはきょろきょろと首を動かしてあっちを見たりそっちを見たり、好奇心旺盛な我愛羅くんのその様子は異世界からやってきた子供らしい反応でとても可愛くて、それを微笑ましく見ているこっちの首が疲れてしまいそうだった。
今時忍者がいるような世界から来た子だから彼の世界は遥か昔の日本のような世界を想像していたんだけど、どうやらそうでもないらしい。そうだよね、シャワーは普通にあるみたいだし映画も写真もあるって我愛羅くんは言っていた。どうやら我愛羅くんの世界は今の日本に何処か近いところがあるようだ。
さすがに車や電車といった乗り物はないみたいで(そりゃ忍なんだから移動は自分の足だよね)、初めてそれらを見た我愛羅くんは驚きながらも目を輝かせていた。やっぱり男の子って乗り物とか好きなのかなあ。

「、××っ、あれは?」
「ん?あっ、あれは飛行機だね。空を飛ぶ鉄の塊だよ!」

我ながら何という説明だと思う。でも間違った事は言ってないからまあいっか。

「ヒコーキ、?」
「うん、あれに乗れば色んな国に飛んで行けるんだよー」
「、すごいねっ…!」
「そうだね!……まあとってもお金がかかるけどね…」
「××、?」
「ううん、何でもない何でもない!あっ、ここで降りるよ我愛羅くん」
「うんっ、」

電車から降りて二人で改札に向かう。乗る時は我愛羅くんの切符は私が通したんだけど何事も勉強だという事で、我愛羅くんに切符を渡してからお手本を見せる。私の行動を何やら真剣な面持ちでじっと見つめてくる我愛羅くんを前に、改札を通るだけという日常茶飯事なそれに何故か変な緊張が走った。だってこんなシーンを小さな子供に真剣に見つめられるシチュエーションってそうそうないからね。改札を通った私に続いて、我愛羅くんが少し緊張した面持ちをしながら私の行動を真似て切符を通してから改札を抜けた。ちゃんと改札を通れた事が嬉しいのか、我愛羅くんは満足げに笑いながら私の元に小走りでやってくる。なんなのこの初々しさ。我愛羅くん可愛いよ我愛羅くん!もうここ数日の間ずっと「我愛羅くんかわいい」と連発してるけど、私は決してショタコンではない。と、思う。

「、××っ…!」
「うん、エライぞ我愛羅くん!よく出来ました!」
「うんっ…!」

くしゃりと頭を撫でれば少し照れ臭いのか、はにかんだように笑う我愛羅くん。そんな彼に胸をきゅんっとさせながらショッピングモールへと向かう。大きな建物の中に色んな店が並ぶその光景が物珍しいのか、ショッピングモールに着いてからも我愛羅くんの首は疲れる事を知らないかのようにきょろきょろと動く。

「××っ、」
「うん?」
「、人がたくさん…っ!」
「そうだね。今日は平日だから少ない方だけど、逸れないようにしなきゃねっ!」
「、うんっ」

繋がれたお互いの手にきゅっと力が込められる。土日や祝日の混み具合からしたら全然少ない方だけど、人混みが苦手な私からしたらこれくらいでも「人がゴミのようだ」な感じで某大佐状態になってしまう。この人混みには毎回うんざりとしてしまうのに今日はそれほど気にならないのは、我愛羅くんと一緒に居るからだろうか。いや我愛羅くんが迷子にならないようにという意味で、ある意味この人混みが気になっているけど。
目的である子供服が置いてある店に入れば若いママさんやその子供たちが目に入る。私と我愛羅くんも周りからしてみればあんな風に見えてたりするんだろうか。
ふと我愛羅くんを見てみれば我愛羅くんはそのどこにでも居るような家族光景を寂しそうにじっと見つめていて、我愛羅くんと繋がれた手は少し力が弱められスルリと抜け落ちそうになった。
…ずっと気になって不思議に思っている事がある。砂隠れの里の皆から何かを恐れられているらしい彼の傍には、本当に誰も居なかったのだろうか。それじゃあ我愛羅くんの両親はどうしていたんだろう?兄弟は居ないの?親戚は?普通なら傍に居るべきはずの存在である家族でさえも、彼の"何か"を恐れているんだろうか。他人の家庭内事情をとやかく言うのは良くないけど、彼はまだこんなに小さいのにどうしてこんな思いをしなくちゃならないの。我愛羅くんにかける言葉を探してみたけど見当たらなくて、言葉の代わりにこれでもかっていうくらい繋がれた手にぎゅうっと力を込めた。すると仲睦まじい親子に向けられていた我愛羅くんの視線は弾かれたように私へと向けられる。

「見て見て我愛羅くん。あの服我愛羅くんに似合いそう」
「、っ、」
「…ねえ我愛羅くん、今日は私を我愛羅くんのお母さんだと思ってね。お姉さん、息子の為なら何だってしちゃいます!」
「……っ、うんっ、」

寂しげな色をしていた緑色は少しだけ光を燈した。微かに笑みを零した我愛羅くんに私は安堵の息を漏らす。
ごめんね我愛羅くん、私がキミに出来る事なんてほんの一握りしかないけど、それでもキミのそんな哀しそうな顔は見たくなんかないの。キミの哀しそうな顔を見ているとなんだか胸が苦しくなるから。たくさん甘えてたくさん我が儘を言って、私はそれを全部受け止めるから。

だからキミはただ、笑って。

(キミが笑顔を見せてくれるなら、私が出来る事は何だってしよう)




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