もう身体中の毛穴を開いて汗という水分を流しきってしまったから、私の身体はカラカラに渇いてしまって水分を求めていた。冷蔵庫に向かいその中からお茶を取り出して、コップを手探りで探す。ホントはお風呂上がりに飲むのはコーヒー牛乳が1番いいんだけどな。給料日前だからお茶しかないのが残念だ。コップを手に取りお茶を注いだそれを口に運んだその時、腰辺りにどんっという衝撃。
ごふっとお茶を吹き出し咳込みながら何事かと振り返れば、私の腰辺りに抱き着いてる我愛羅くんの姿。いや抱き着いてるっていうより、しがみついてる感じ。っていうか寝てたはずだよねこの子。起こしちゃったかな。

「、が、我愛羅、くん?」
「っ…起き、たら…××が居なかった…からっ、」

居なくなっちゃったのかと思った、弱々しく途切れ途切れにそう吐き出されて、我愛羅くんがしがみついてる力がぎゅうっと強くなった。少しの間離れていただけなのにまさかこんな事になるなんて。私が思っていた以上に彼の心の闇は深く、そして弱い。
これほどまでに独りになる事を恐れているこの子は、今までに一体どんな目に合ってきたのだろう。
それは想像もつかない、だけど彼はその小さな身体には似つかわしくない悲しみと苦しみを背負ってる。まだこんなに小さいのに、"孤独"な事がどれだけ苦しいことなのかよく解ってるんだろう。その苦しみは、こんな小さな子供が味わうものじゃない。子供という生き物は色んな人からの愛情をその身に受けて、すくすくと育っていく生き物。世の中にはそうじゃない子供も確かに居るとは思うけど。これほどまでに孤独を恐れているこの小さな子供に、私は一体なにが出来るだろう。

彼になにをしてあげられる?

「大丈夫だよ我愛羅くん。私はちゃんとココに居るから」
「…、うん、」

少し身体を震わせながらしがみつく我愛羅くんに言い聞かせるように何度も"大丈夫"と繰り返し、私は彼の頭を撫でる。撫で続けている内に我愛羅くんは少し落ち着いたのか、私の腰にしがみついていた力が緩んだ。
遠慮がちに私を見上げてくる綺麗な緑色は、ゆらゆらと不安げに揺れている。
どうすれば我愛羅くんの不安を取り除くことが出来るだろう。"ずっと傍に居る"なんて、そんな事は安易に言える訳がない。だって彼はこの世界の住人じゃないのだから。いずれ私の前から居なくなるのは、我愛羅くんの方なのだから。私が今ココで我愛羅くんにしてあげられる事、ずっと傍に居てあげる事は出来ないけれど、今だけは。彼がココに存在している今だけは。

彼が寂しくならないように、孤独だなんて思うことがないように、私の愛を精一杯この子に贈ろう。

私には、それくらいしかしてあげられないから。

「、ごめんね我愛羅くん、起こしちゃったね」
「……、」

私から少し視線を外しながら、我愛羅くんは小さく首を振った。そんな我愛羅くんに視線を合わせるようにその場に座り込むと、我愛羅くんは少し目を丸くさせる。それでも我愛羅くんの綺麗な緑色の瞳には不安げな色が含まれていて、そんな彼を見ているとこっちの胸が苦しくなる。

少しだけでいい。

ほんの少しだけでも、彼の心の闇が和らいでくれたら。

「今度こそ一緒に寝よう、ね。そうだ我愛羅くん、子守唄唄ってあげるよ?」
「…、うん、……でも子守唄はいいや、」

やんわりと断られた。今お姉さんの心に200の大ダメージを与えたよ我愛羅くん。

「…あ、それとね我愛羅くん、私明日はお仕事があるから…私が帰ってくるまでいい子にしてお留守番できる?」
「…、できる、よ」
「うん、いい子だね」

くしゃりと我愛羅くんの頭を撫でれば擽ったそうに目を細める。えらいえらい、と頭を撫で続けていると少し不安げな表情を浮かべて私を見てくる我愛羅くんが、遠慮がちにぽつりと言葉を吐き出した。

「……でも、」
「?うん、」
「……、…なるべく早く、帰ってきて、ね」

おずおずと吐き出されたその言葉に、私は胸がぎゅっと締め付けられたような感覚に陥った。こんな健気な子をココに置いて仕事になんて行きたくない。できる事なら我愛羅くんと一緒に居てあげたい。それは社会人として如何なものかという話だけれど。大丈夫、やり残した仕事は今日終わらせたから明日は残業なんて絶対してやらない。何があっても絶対早く帰るんだ、私の帰りをココで待っててくれているこの子の為に。

「うん、なるべく早く帰るからいい子にして待っててね」
「…うん、」
「よしよし。…じゃあそろそろお部屋に戻ろうか?」
「うん、」

我愛羅くんの方へと手を差し出せば、それに重ねられる小さな手。それをきゅっと握って寝室に向かい二人でベッドに潜り込む。二人でベッドに寝転がってからも私と我愛羅くんの手は繋がれたままで。向かい合う我愛羅くんはやっぱり何処か不安げな表情を浮かべていて、繋がれた手にぎゅっと力が込められる。それには少し驚いたけど不思議と嬉しくもあって、私がそれに応えるようにぎゅっと握り返したら今度は我愛羅くんが驚いたように目を丸くさせた。
そしたらまた私の手を握る我愛羅くんの力がぎゅっと強く込められて、私もまた握り返して、それを何度か繰り返している内に私の頬も我愛羅くんの頬も緩んだ。かっわいいなあもう。これからもっともっと我愛羅くんと仲良くなれるように、明日の夕食は給料日前だけど奮発して我愛羅くんの好物にしよう。そしてそれを食べながら色んな事を我愛羅くんと話そう。

「ねえ我愛羅くん、」
「…なに?」
「明日の夜ご飯、何がいい?我愛羅くんの好きな食べ物教えて?」
「………砂肝、」
「えっ!酒のつまみ!?」

我愛羅くんの意外な一面を知った今日この頃。




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