「あのー、グリーンさん?」
私の手を引いて早々に店を出たグリーンはずんずん草むらを避けて歩いて行った。
しかし、この俺様ナルシストな殿方はいっこうにこちらを振り向いてくださる気配はないようだ。
歩いていくにつれ、だんだん戸惑いが怒りに変わり『なんか言いてえなら言えよコイツ』みたいな逆ギレマインドが芽生えてきた頃、ようやく振り返ったと思えば道路を挟むゲートの壁にゆっくり押し付けられた。
え、なにこの状況。
「残念ながら俺は聖母マリアのように寛大な御心なんざ持ち合わせちゃいない」
「は?何言っちゃってんのグリーン」
いきなり何の話だ。自慢じゃないけどものすごく頭が悪い私はグリーンが何を言いたいかなんてさっぱり分からない。
「惚れたからには突き通す。例えどんな目の眩む誘惑があったって、俺しか見られなくしてやるよ」
しかし、悪役さながらにやぁ、と怪しく口元を歪ませるグリーンにはさすがに危機感を覚えた。
ひしひしとヤバい雰囲気を感じ取り始めた私はずりずりと後ずさろうとするが、既に両脇を腕に挟まれ壁に張り付け状態。
まさに成す術なし。そしてきっと、これもすべて彼の計算済み。
「グ、グリーン?ちょ、なんのつも」
「朝まで逃がさねえよ?」
上から被さるようにして耳元に囁かれたその言葉は、私には死刑宣告を叩きつけられたように感じた。
絶対絶命とはまさにこのことだろう。さようなら私。
つーかこれ私の誕生日プレゼントだよね?るみちゃんカップルがいちゃついてるだけじゃね?羨ましいなちくしょーとか思ってたらこのザマですか。
まじ不意打ち勘弁。この人自分がイケてるメンズに入ってるの分かってんの?
「サキ……」
あ、分かっててやってんのかこのナルシストは、と思い直した時には耳元で甘く名前を囁かれてなんだか無性に恥ずかしくなって耳が熱くなるのを感じた。
「って、ちょっとタンマここ外……」
「無理矢理仕事抜けてきたからトキワには帰れねーんだよ」
「いやそれ理由になってないですグリーンさん!」
「分かんねえのか?そうまでしてもお前に会わねえと死んじまいそうだったんだよ」
「……!!」
「だから、充電」
先程とは打って変わって弱々しくぱたりと倒れ込んだグリーンを押しのけることはできなかった。
「……そっか。」
寂しいのは私だけだと思っていた。グリーンは仕事が忙しいから、私のことなんて忘れてるだろうし考える暇もないんだろうって。
でもそれは、とんだ思い違いだったようだ。
「よしよし」
頭を撫でてみるとなんかちくちくした。しっかり腰に回った両腕にぎゅうと力が入るのを感じて、私もゆっくりと彼の背中に腕を回した。
聖母マリアにはなれない
なれたとしても、せいぜいあなたの想い人くらいだ。