ちょっと恋愛について語らわないか、などと言いはじめたるみに付き添った私は、アサギの牧場にある小さな喫茶店に来ていた。そこではモーモーミルクを使った特製のプリンやアイスが売ってある私たちの密かな穴場だ。値段も安いし(グリーンのお金だけど)。
さて、とるみと向かい合わせに座った私は「ねえ、ひとつ聞いていい?」と早々に口火を切った。

「ん?なあにサキ姉」

「るみちゃんの『恋愛について語らう』っていう話題はさ、これまでから察するにきみの旦那さんのお惚気ってことでいいんだよね?」

「うん、そうだよ?」

なにを当たり前のことを、と言わんばかりのるみに口元がひくついた。

「じゃあなんで本人が隣にいるのかな?」

ずず、とのんきにミルクを飲むるみの隣ではこっちが暑苦しいくらいるみにひっついているレッドが嫌でも目に入った。
ていうかさっきからるみちゃんが気付かないように私をものすごい形相で睨むの止めてくれない?
仕返しにうんざりした視線を返せばふいっとそっぽを向かれた(こいつ)。

言いながらるみを気持ち悪いくらい柔らかい目線でガン見しているレッドを指さ……そうとして、やめた(「グリーンと似ている」という理不尽な理由で嫌われている私が指なんてさそうものなら何倍返しで返ってくるのか想定できない)。ちなみに彼と一心同体であるピカチュウはるみの膝にちょこんと乗っており、ここからだと鼻から上だけ見えている。くそう、かわいい。

対して、るみはサキの目線を追ってレッドと顔を見合わせ、二人してこちらに向き直りこてんと首を傾げた。

「「変?」」
「ぴぃか?」

「ああもうハモるなバカップル!!」

しかもピカチュウも加わるというおまけつきである。
頭を抱えたくなる私に、るみは当然の如くこうのたまった。

「じゃあサキ姉もグリーン呼べばいいじゃん」

「『日曜の夜以外は身体が空かねえ(※ドヤ顔)』んだってさ」

「聞いたレッドさん?さいてーだね」

「最悪だね」

「っていうのは冗談で今はシンオウに出張中、って言いたかったのに君たちグリーンに冷たすぎやしないかい」

なんだかこの人たち見てると自分たちの恋愛がまるで普通でない気がして滅入る。こないだグリーンにそれを言ったら「安心しろ、あいつらが異常すぎるだけだ」とか苦笑されたけど。

「でもさあサキ姉。サキ姉だってグリーンに酷すぎるよ?お嫁さんなんだからもっと大切にしてあげないと!」

「それを真顔で言ってのけるるみちゃんが一番酷い気がするのは私だけかな」

るみのセリフからグリーンの文字が出たあたりからこちらを全く無視してガン見を再開するレッドはさておいて、私は苦笑いでツッコミを入れた。

でもさあ、とやっと真面目に話をする気になったらしいるみが唇を尖らせる。

「サキ姉浮気性だし。なんだかんだでグリーン一筋なのは分かるけどさ、やっぱ可哀相だよ?たまにはちゃんと本人に好きだって言ってあげなくちゃ」

もっともらしいことを言っているとは思うけど。今度は私の方が拗ねるようにそっぽを向いた。

「仕方ないじゃん。グリーンも我愛羅もトウヤくんも京くんもかっこいいんだから。アイツらがかっこいいのが悪い」

「聞いたレッドさん?さいてーだね」

「最悪だね」

「あんたらは私を励ましたいのかけなしたいのかどっちだ!」

ここぞとばかりに顔を見合わせるバカップルに怒鳴ると、るみはこちらに向き直り首を横に振った。

「いやー、さすがに同ジャンルのとーやくんはダメだよサキ姉。とーやくんはユキちゃんのものだよサキ姉。そこはグリーンで我慢しときなよ。とーやくんには及ばないけどグリーンだってそれなりにかっこいいんだからさ」

「おかしいなるみちゃん。なんか私の方がグリーン可哀相って思えてきたよ?」

そして私はもうひとつ面倒なことに気づいていた。るみを見つめていた柔らかい目線がだんだん不機嫌そうに細められていることに。
理由は言わずもがな他の男の名前連呼と『グリーンかっこいい』発言のせいだろう。

「……るみ」

「ん?どうしたのレッ……て近い近い近いぃい」

案の定、るみはレッドに耳元まで顔を寄せて何か囁かれ、こくこくとしきりに頷いていた(おおかた『あんまり他の男の名前呼ばないで』だとか『もっと俺の名前呼んで』だとかそーゆう口説き文句だろう)。ついには「レッドさんはもっと自分のかっこよさを自覚して!!」と泣き顔で訴えながら必死に胸を押し返するみを、私は肘をついてただ傍観していた。

っつーか、もしかしなくても私邪魔なんじゃね?帰っていい?

るみの『レッドさんが世界で一番かっこいいよっちゅっ』的な発言によって(そんなこと言ってない!!!)やっと機嫌を直したらしいレッドが元の定位置に戻ってガン見を再開する。

「つまり!サキ姉はちゃんとグリーンに伝えるべきだよ!!」

「と言われましても」

「あいしてるよるみ」

「ちょッ……ッッ」

「レッド、るみちゃんきみに言ったんじゃないから。話ややこしくするのやめようか」

さらりとツッコむ私と真っ赤になるるみ。
つくづく思うけど、この二人と私らって真逆だよなあ。

「んー、でもなあ、グリーン最近忙しいから私から誘うのも悪いし。こないだだってグリーンいないから我愛羅とカラオケ行ったし(※妄想)。この際我愛羅くんに乗り換えちゃおっかなあ、なんて…」

特になにも考えずにからりと笑う私は、るみがこちらを見つめて「あーあ」と言わんばかりの表情をしていることも気付けなかった。


直後、聞こえた声に背筋が凍るのを感じた。


「誰が、」


一拍置いてぽん、と肩に誰かの手が乗っかってびくっと震える。


「誰と、ナニしてたって?」


「グリーン、グリーン、文字の変換がおかしなことになってるよー。しかも色々聞き間違えてるよー」

わざとらしくのんびりした口調でツッコむるみ。こいつ絶対色々分かってやがった(まあ私が鈍すぎたっいうのもあるんだろうけどそんなの絶対認めない)。

るみに恨めしげな目線を送……ろうとして止めた私を、二つの殺気が見つめた。

一つはレッドの『るみ睨んだら殺す』という殺気(※目で語っています)。
そしてもう一つは……

「サキちゃん、そろそろ遅いし帰るか。二人で。」

あれ、にっこり笑うグリーンってこんなに怖かったっけ。ちゃん呼びとかされたの初めてじゃない?私。


あれ?

……今日の私って、一番可哀相じゃね?




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