「……っぷはあっ!はあ、はあっ…」
「えっ、××ちゃんどうしたの?」
「いっ、息するのっ…忘れててっ、」
「あははっ、あの二人のバトル見てると確かにそうなるかもね!」

トキワジムにあるバトルフィールド。つい先程まで、このバトルフィールドではレッドとグリーンのポケモンバトルが繰り広げられていた。バトルフィールドに鳴り響いたのは両者のポケモンから繰り出された技がぶつかり合う轟音、レッドとグリーンの指示に俊敏に動くポケモンたち、いつ何処で戦況が転がるか解らないその状況は一時も目が離せなかった。最初は座ってそのバトルを観戦していたはずなのに、気付いたら立ち上がって握りこぶしを作っていた掌には汗を握るほどで。
息を飲んだまま息をするのをすっかり忘れてしまった。

すごいとか、そんな簡単な言葉で表現出来ないほどに魅了されてしまった小さな世界、だけど私にはすごいというそれしか浮かばない。

だって、本当に、

「……すご、い」
「うん、ごく稀にしか見れないバトルだからね。それに、二人ともあの実力だし」

そう言うヤスタカの表情も何処か興奮気味に見える。レッドとグリーンのポケモンバトルの勝敗はレッドが勝利したけど、どっちが勝ってもおかしくないバトルだったように思う。バトルの最中に垣間見えたグリーンの横顔は本当に楽しそうで、表情の変化が普段は解りにくいレッドの表情でさえも違ったように見えた。楽しげな表情を見せながらも二人の表情は何処か真剣で。バトルを終えてポケモンをボールに戻した二人。レッドは相変わらずの無表情で、ぐしゃりと頭をかくグリーンの横顔は少しふて腐れているかのよう。
どんなに楽しいバトルでも勝負は勝負。グリーンの横顔からその悔しさは十分に伝わってくる。思わずその場でぱちぱちと手を叩いてしまったのは興奮なのか感動なのか、多分色んな感情が入り混じっていたんだと思う。それに気付いた二人と視線がぶつかって、悔しそうな表情から普段通りの表情に戻ったグリーンが片手を上げたのは「こっちに来い」の合図。

「どうだよ××、初めてバトルを見た感想は?」
「なっ、何て言ったらいいかわかんないけどすごいっ!とにかくホントにすごかったっ…!」
「お前、興奮しすぎだっつーの」
「だっ…だってすごかったよ!?」
「あーはいはい分かった分かった。…ま、俺も初めてバトル見た時は今の××みたいな感じだったけどな」

なあレッド、とグリーンがレッドに視線を向ければレッドも何処か懐かしむような表情を浮かべ「うん、そんな感じだった」と笑みを零した。
二人のバトルを見た興奮も感動も今だに冷めなくて、そのバトルの映像は写真みたいに焼き付いて頭から離れないし鼓動は少し早い。それと同時に私にはこの二人のようなバトルをするのは少し無理があるかも、とちょっと不安になったりもする。

「…××、別に誰もお前に俺たちみたいなバトルしろなんて言ってねーんだから、んな顔すんなって」

苦笑を漏らすグリーンにそう言われ私は顔の筋肉にきゅっと力を込めた。また顔に出してたのか私。ごまかすように苦笑しながら頬を掻いていると続けてレッドが口を開く。

「××は××のバトルをすればいいよ。人にはその人のバトルがある。負けたら負けた時。…大丈夫、××には俺が付いてる」
「おい、俺も忘れんなよ。ま、××にはカントー最強のジムリーダーのこの俺とリーグチャンピオンのコイツが付いてんだ。自信持っていいぜ」

二人のこの自信は一体どこから溢れてくるんだと思うけど、あれだけの実力がある二人だからこその自信なんだろうと思うし、レッドとグリーンの言葉は何故か不思議と信じられる。こんな二人が付いてるなんて、私はホントに恵まれてると思う。

「それより××、さっきからソイツが気になってんだけどよ」
「う、うんそうなの。グリーンとレッドがバトルし始めてからずっとなんだよね」

目の前で繰り広げられていた二人のバトルに触発されたのか、私の腰に着いたピカチュウのボールはさっきからカタカタと揺れが止まらない。
あれだけ凄いバトルだったんだもの、ピカチュウも興奮してバトルがしたくなったのかな。

「じゃあ早速バトルしてみるか?」
「えっ!誰とするの?」
「俺かレッドのどっちかだな」
「むり無理ムリ無理っ!」
「××としてみたいな、バトル。」
「ちょっ、お二人さん!あなた達とバトルするのはもう少し力を付けてからじゃダメですか…!」
「…だってよレッド」
「…じゃあ次に会う時まで、楽しみはとっておくことにする」

えええ何でそんなに笑顔なの楽しみって何が楽しみなの。ちょっと恐くて聞けない。レッドの発言と笑顔がいちいち恐いと思う今日この頃。

「俺とレッドとのバトルはまた今度っつー事で、まず手始めに野生のポケモンとのバトルからだな」
「う、うん!それなら…!」
「じゃ、トキワの森行くぜ。先に言っとくけどピカチュウが居るからって油断はすんなよ?」
「わ、分かってるってば!っていうか今から行くんだ!」
「また勝手に決めて…リーダー、ジムはどうするんですかジムは!」
「優秀なジムトレが居てくれてホントに助かるぜ、ヤスタカ」
「言い出したら聞かない人なんだから…レッドさんもリーダーに何か言ってやってくださいよ!」
「……どんまい、ヤスタカ」
「レッドさんまで!もう××ちゃん、二人に何か言ってやってよ!」
「え、うん。…どんまい、ヤスタカ」
「ええっ!?」

(知ってるようで知らなかった世界にうっすらと色がつき始めた。)




- ナノ -