レッドと二人で急いでトキワシティにあるポケモンセンターへと向えば、天使の微笑みを持つジョーイさんが私たちを迎えてくれた。
毒を受けただけだったからかジョーイさんに治療をお願いしたピカチュウはすぐに元気になって私の肩に飛び乗ってきたけど、これが実は地味に重たかったりする訳で、常にピカチュウを肩に乗せてるんだろうレッドの肩は相当強いんじゃないかとふと思う。毒を受けた時のピカチュウは酷く苦しそうにしていたけど、すっかり元気になったみたいでホントに良かった。
傷付いたガーディはレッドが応急処置をしてくれたおかげで何とか止血は出来ていたけど、ガーディの怪我を見せた時のジョーイさんの反応は何とも言えないものだった。

「酷い傷ね…このガーディはしばらく入院する必要があるわ」
「そ、そうですか…」
「××さん、そんなに気を落とさないで。貴女が居なかったらこのガーディはもっと酷い目に合っていたかもしれないんだから」
「は、はい…ジョーイさん、この子をお願いします」
「ええ、任せてください」

にっこりと微笑んだジョーイさんの笑顔は本当に安心出来るような微笑みで、その天使のような微笑みにホッと胸を撫で下ろした。だけどやっぱりガーディもピカチュウも自分の手で守ってあげられなかった事が、悔やんでも悔やみきれない。ああしていれば、こうしていたら、もしかしたら今とは違う状況になっていたかもしれない。頭の中ではずっとこんな都合のいい考えばかりを描いては消して描いては消しての繰り返し。自分にもっと力があれば、もっと上手にバトルの流れを運ぶ事が出来ていたら、あの子たちを守る事ができたのかもしれないのに。もっと自分にバトルの腕があれば…

もしこの先同じような事があるのなら、その時はもう「たら」「れば」って言いたくない。もっと自分を信じられるくらいバトルの腕に自信があったなら。その為に私が出来る事、それはやっぱり経験を積んでいくしかない。ゆっくりでもいいから、経験を。

「…ねえレッド、」
「なに?」
「レッドはいつシロガネ山に戻るの?すぐに戻っちゃうの?」
「…しばらくはマサラに居るつもり。母さんと話したい事もあるし…、久しぶりにグリーンとバトルするのもいいかも、」
「グリーンとバトル?…ねえ、そのバトル私にも見せてほしいんだけど…ダメかなあ?」
「俺とグリーンのバトルを?」
「うん、バトルは経験だってレッド言ってたでしょ?それなら見るのも経験だよね?」

そう。そもそも今回ロケット団とのそれが初めてのバトルだった私は「ポケモンバトル」というものを実際にこの目で見たことがない。トキワのジムに居るのにあのジムに挑戦に来る人達は少ないからか、今までそんな機会がなかったんだけど。
まずは「ポケモンバトル」というそれがどんなものなのか、私は知らなくてはならない。この目で確かめておかなくちゃならない。

「、俺は構わないけど」
「ホントに!?ありがと…!」
「××、」
「ん?なにレッド?」
「そろそろジムに行かなくてもいいの?ジムに行く途中だったんでしょ?」
「…………あ、」

レッドの言葉を聞いて自分が置かれている状況を理解した。もちろんジムに向かうまでの間、私の脳裏に浮かぶのは鬼のような形相をしたグリーンの姿だった。



レッドと別れた私はジムに入りたくても気持ち的に躊躇していた。今回はグリーンのどんな説教が待ち受けているんだろうか、それは想像しただけでとてつもなく恐ろしい。それもあるけど自分の気持ちが解ってしまったからか、グリーンと顔を合わせるのが非常に気まずい。ジムの入口でうろうろと足を遊ばせていると、ジムのドアが開いた音が聞こえてくる。その音に視線を向ければ驚いたような表情を浮かべたテンと視線がぶつかった。

「あっ!××ちゃん…!?」
「て、テン、おはよっ、」
「おはよう!…ってそうじゃなくて、××ちゃん何してたんだよ!?グリーンさんの話聞いてから俺たちすっごく心配して…!」
「ぐ、グリーンの話…?」
「ほら、最近ジョウトでロケット団の姿が確認されてるって…!」
「あ、それなら今朝私もナナミさんから聞いたけど…」

っていうかさっきまでそのロケット団とポケモンバトルをしていたんだけど。これってやっぱり、とりあえずグリーンには言った方がいいんだよね。街の治安を守るのもジムリーダーの仕事だもんね。

「××ちゃんがまだ来てない時にグリーンさんからその話を聞いたから、××ちゃんに何かあったんじゃないかって思ってさ。まあでも無事みたいで良かったー」
「そ、そっか。心配かけてホントにごめんね。あ、あの…グリーンは今どうしてる?」
「あっ、グリーンさんまだ××ちゃんを探しに出てったっきりだから呼び戻さないと、」

言いながらポケギアを取り出すテンの言葉は途切れ、その必要ないか、と取り出したばかりのポケギアをポケットに仕舞った。それに首を傾げながらテンを見ていると「××ちゃん、今日は覚悟しておいた方がいいかもね」と、苦笑いを浮かべたテンから全くもって意味が解らない言葉が降ってきた。

「え、それってどういう…」
「××ちゃん後ろ後ろ、」

テンのその言葉を聞いて誰が自分の後ろに居るのかすぐに解った。だんだんと近付いてくる足音に私は身を強張らせる。テンは「ああ恐い恐い」なんて言いながら私を置いてそそくさと自分だけジムの中へと戻ってしまった。
え、ちょっと待ってよ。私の後ろに居るのだろうグリーンはそんなに恐い顔をしているんだろうか。振り返るのがとてつもなく恐い。なかなか振り返る勇気が無くて思いつくはずもない言い訳をあれやこれやと考えていると、急に何故か息苦しくなった。
え、なに!首を絞められるほどグリーンを怒らせてしまったんだろうか、少しパニックに陥って状況が理解出来ない私の思考は次の瞬間に吐き出されたグリーンの言葉によって落ち着きを取り戻す。

「…お前な、勝手にふらふらすんなよ頼むから…っ、」

耳元で吐き出されたそれは安堵したような声にも聞こえたけど、いつものグリーンとは違ったらしくない少し情けない弱々しい声色で。
その声に強張らせていた身体の力が抜けて、首を絞められているんじゃなくて後ろから抱きしめられているんだという事に気が付いた。落ち着きを取り戻したからなのか何なのか、どうしてグリーンは私を抱きしめているんだろう。と漠然と思いながら私はすんなりとそれを受け入れていた。




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