カップル、恋人、カレカノ。まあ全て同じ意味合いを持つ言葉な訳だが、俺と××の周りは世間でそう呼ばれる輩で溢れ返っていた。
雨が降っているというのに、そんなことはどうでもいい。気にしない。とでも言っているかのように、行き交う男女たちは幸せそうに歩いていて。それはもうすぐ、恋人たちにとって大きなイベントが近付いているから、というものもあるのだろう。
綺麗なイルミネーションを点し少々浮足立った街並みに小さな溜め息をひとつ漏らしたが、そんな周りの男女たちから自分たちはどんな風に見えているんだろう、なんて、よく分からないことを考えながら××を見れば、口元を両手で覆い息をはあ、と吐きかけていた。雨が降っているから、空気が冷えているせいだろう。

傘がひとつしかないせいで俺の肩も××の肩も、ひんやりとした冷たい雨に濡れているし、戻れるのなら××を迎えに行く前に戻って、××の分の傘忘れんなよ、と自分自身に言い聞かせてやりたい。

「なあ」
「なんですかグリーンさん」
「寒くねえのか?」
「なに言ってるんですか寒いに決まってるじゃないですか」
「…だよなあ」

お互いが言葉を交わす度に、口から吐き出された白い息が上へと伸びる。それはこの空気がどれだけ冷えているのかを表しているもの。何を当たり前なことを聞いているんだ、俺は。そもそも俺が××の傘を忘れずに持ってきていたら、ここまで寒くもならなかっただろうに。まさか、この俺が忘れるなんて。自分の失態に驚きを隠せない。自分で思っている以上によっぽど焦っていたんだろう、あの時の俺は。目的そのものを忘れてしまうほどに。

もう一度ちらりと××を見れば、先ほどと変わらず両手に息を吐きかけていた。

「つーか××、」
「はい?」
「お前、手袋とかしてねえのな」
「あー、こんなに早く寒くなるなんて思わなかったからまだ買ってなくて」

思えば初めて会った時もそうだったけど、××は基本薄着なんだよな。
あの時は近場のコンビニに行くのが目的だったから、部屋着にカーディガンを羽織るだけという薄着だったらしいけど。寒さがあまり得意ではない俺からしたら、考えられない。
風邪でも引いたらどうするんだよ。ああでも、なんとかは風邪引かないとかよく聞くしな。

「つーかそんなに寒いなら買った方がいいんじゃねえの?」
「そうですね…あっ!じゃあ今度の休みの日に買いに行きます。グリーンさんも一緒に来てくださいね」
「は?なんで俺まで、」
「ついでにグリーンさんの服とか買いたいんで」
「や、別に俺の服は…」

言いかけて、××にギロリと睨まれたので口を閉じた。こいつはどうも一度決めたことはやり遂げたいらしい。まあ家に居ても俺がやることなんて家事くらいしかないからいいんだけど。

「さっみーなーもう」
「グリーンさんさっきから口を開けばそればっかりですね」
「寒いもんは寒いんだよ」
「寒いって言うから余計に寒くなるんですよ!」
「…あっちー」
「今真冬ですよグリーンさん。暑い訳ないじゃないですか」
「おいてめえ」
「あっ、グリーンさん焼き芋食べませんか焼き芋!」
「人の話を聞けよ」

××と居ると、どーも××のペースに巻き込まれてるような気がする。でもそれが不思議と心地好くて、楽しいような気がしないこともない。
だってこいつが、すげえ楽しそうにするもんだから。この世界に居ることに不安がない訳ではないが、××の笑う顔を見ているとそれが少し拭われるような。…この世界に来て出会ったのが××で、良かったと思う。

「おじさん、焼き芋ふたつ!」
「あいよー。熱いから気をつけて食べなよ。そっちの兄ちゃんも」
「あ、どーも。××火傷すんなよ」
「またそうやって子供扱いして!」

おっさんから焼き芋を受け取った××は、火傷すんなよと言ったそばからあまりの熱さに焼き芋を落としかけていた。ほらみろ、なんて思いながら××に視線を向ければ、「あっ、熱くないですよ!」とごまかすように笑いながらも涙目になっていて、なんにもごまかしきれてない。それには思わずふっと苦笑が漏れる。
そんな俺たちを見ながら「二人とも仲が良いねえ。お似合いお似合い。おじさんも若い頃はなあ…」と口元をニヤつかせながら武勇伝を語りだそうとするおっさん。その武勇伝が聞こえているのは俺だけなのか、××は目の前の焼き芋に夢中。どれだけ食い意地はってんだよお前は。
気分が良さそうに武勇伝を語るおっさんを前に、いや俺たちそういう仲じゃないんで、なんて説明するのも面倒臭い。それよりも、だ。このおっさんがさらっと「お似合い」だとか言ったせいで、寒いはずなのに俺の顔は何故だか熱を帯びていて。
クッソ焼き芋なんて食ってたら、余計熱くなるじゃねえかよ。

…まあでも、顔も身体も冷えきってしまった俺には、その熱さがちょうど良いかも、なんて思ったり。


(グリーンさん顔赤くないですか?もしかして風邪ですか!?)
(あ?別にそんなんじゃねえよ。っつーか近い!)






- ナノ -