「うえぇ…あっめぇ…」
「えー!私これスッゴい美味しいとか思ったんですけど!」

パクっと一口だけケーキを口に運べば、なんとも甘ったるい味が口内に広がった。
一口だけでも胸焼けがしそうなのに、お皿に乗ったケーキはまだまだ残っている。やっぱり女ってのは甘いもんが好きなんだなーと思いながら××に視線を移せば、××がなにやら思いついたような顔をした。

「2人でケーキ食べるだけってなんか味気ないですね」
「そーか?俺はこれを食うのに必死だけどな」
「なんかしましょう!」
「なんかって?」
「んー…あ、そういえば買ったけど見てないDVDがあったんですよねー」

せっかく仕事休みなんだし有意義に過ごさなきゃ、と××はテレビの方に向かいデッキを弄りだした。見てないDVDを見る事が果たして有意義なのかどうかは置いといて、問題はそのDVDの内容なわけだが。
そのパッケージを見る限りでは、ベッタベタなラブストーリーな気がするのは俺の気のせいだろうか。別にラブストーリーが嫌いなわけじゃねーけど、こういうのって普通は恋人と見るもんなんじゃねぇのか?
恋人でもないヤツと見るなんて、気まずいだけなんじゃないだろうかと思っているのは、俺だけなんだろうか。
そんな疑問を投げ掛ける暇もなく、DVDは流れ始める。
始まったストーリーは最初からなんとも甘ったるくて、今食ってるケーキの甘ったるさと合わさって、俺にはこの空気までもが甘ったるい感じがした。
DVDもケーキも始まったばかりだというのに、俺はこれに耐えられるのだろうか。

「…もっとマシなDVDは無かったのかよ…」
「グリーンさん静かにしてください。シーッ!」
「あ、わ、わりぃ…」

××はお皿に乗ったケーキをちびちびと口に運びながら、食い入るように静かにテレビを見ていた。××があまりにも真剣にテレビの中の向かい合う男女を見ているもんだから、思わず苦笑する。
俺は気を取り直して、まだ2/3くらいは残っているケーキを口に運ぶ。やっぱり甘ったるいな、と口の中に充満するそれを和らげる為にイチゴにフォークを伸ばせば、イチゴはころん、と崩れ落ちる。それを見て、またひとつ苦笑が漏れた。



「わ、わ、わ!」

テレビ画面を見つめていた××がいきなりバッと身を乗り出すもんだから、俺もそれに驚く。どうやらストーリーに何かしら動きがあったらしく、そうなったみたいで。

「…なんか、ロマンチックですよねー!」
「んー、そうだな、うん」
「グリーンさん、ちゃんと見てました?」
「あ?あー…まあ、」
「…ちゃんと見てました?」
「…内容は、把握してるけど」
「ホントですかー?」
「……、」

…俺は、なにを見てた?
とりあえず、ケーキをどうにかしようと必死だったのは覚えてる。それから、××の方のケーキはどうなってんのか見てて…全部食い切るなんて断言した割りにはあんまり手が進んでねーな、とか思ったり。
そんで、××は少し笑いながらケーキをやたらでかく救って、それを口いっぱいに含んだかと思ったらうんうん、と頷いたり、うーんと唸りながら首を傾げたりしてた。

「最初は、笑い要素があった」
「あ、そうですそうです!」
「んで、なんかちょっとややこしい感じになって、」
「そうそう!そうなんです!」

そうだ、それからすぐ後にほら、××が身を乗り出して…ってちょっと待った。
俺どんだけ××のことを見てたんだよ。気持ち悪すぎだろ。自分でも気付かない間に、テレビと××と俺で三角関係ができてたんじゃねーか?
ヤバい。気持ち悪すぎる、俺。

「てぇいっ!」
「―ってぇーなおい!」
「1人で勝手に自分の世界作らないでください」
「あ?引き戻すのに普通チョップとかするか!?」
「フツーのやり方じゃ戻ってこないと思いまして」
「…ったく、まだ終わってねーんだろ?見なくていいのか?」
「えっ、あ、そうだった!」

視線をテレビに戻せば、××はホッとしたような、なんだか安心したような表情を見せた。
テレビ画面の向かい合う男女は、ちょっとした困難がありながらも、くっついたらしい。
ああ、やっとこの甘ったるい時間が終わるのか。そうは言っても、お皿の上にはまだまだケーキが残っているんだけども。
そもそもこの甘ったるい時間の諸悪の根源は、このケーキだと俺は思うんだ。そんなことを思いながら、自分の心拍数が少し早くなっていることに、俺は気付かないフリをした。




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