その大きな身体は赤いようなオレンジのような色をしていて、まるでその大きな身体そのものが燃えているみたいだった。
尻尾の先は本当に燃えているけれど。その生き物は正に特撮映画やアニメに出ていてもおかしくはないような生き物で。
いや、出てるんだけども。正直に言ってしまえば初めて実物を見たその生き物は、「恐い」という印象しか浮かばない。
でもその生き物はレッドさんが育て上げたポケモンであって、レッドさんの仲間であって…そんなリザードンを恐いと言ってしまうのは、レッドさんにかなり失礼のような気がする。

「…恐い?」
「えっ…!?」

核心をつくようなレッドさんの言葉に、私はビクリと身体を跳ねさせた。慌てて「そんな事ないです!」と言えば、レッドさんは帽子を深く被り直しながらふっと笑みを浮かべる。
…今、笑うとこあったかな…?

「…初めて乗るんだし、恐いのは当たり前」
「え、あっ…」

レッドさんの言葉に応えるように、リザードンが鳴いた。
それはまるで、「大丈夫だぜ。安全飛行するからよ!」とでも言っているかのように見える。

「…ちゃんと掴まってて」

それだけ言うと、レッドさんは一人で颯爽とリザードンの背中に乗る。私はというと、レッドさんの見様見真似でリザードンの背中に乗ってみようとする…けど、何処に掴まればいいのか分からなくてモタモタしていたら、レッドさんからスッと伸びてくる手。
これは、この手に掴まれ…って事でいいんだよね?
伸ばされた手に少し戸惑いながらレッドさんを見上げれば、レッドさんは不思議そうに首を傾げていた。…お願いですレッドさん。何か喋ってください。
なんて言えるはずもなくて、都合の良い解釈をした私は伸ばされたレッドさんの手を掴む。
というかこの状況、ひどく恥ずかしいと思うのは私だけなんだろうか。年頃の男性の手を掴むなんてどれくらい振りだろう…と言っても、この間までグリーンさんと同居生活をしていた事を考えると、今さらなのかも。
それでも、知り合って間もない異性の手を掴むという行為は不思議と心拍数が上がってしまう。だけど私の心拍数がもっと上がったのは、そのあとの事。
レッドさんは私の手をきゅっと軽く握り返したかと思ったら、かなり強い力でグイッと私の腕を引き上げる。

「う、わっ!」

急に手を引き上げられた事にも驚いたけど、それ以上に驚いたのは私とレッドさんとの距離。
今私が顔を上げてしまえば、目の前には無駄に整ったレッドさんの顔が嫌でも目に入ってくるだろうという状況になり、私は顔を上げられない。
リザードンの背中に乗る事は出来たけど、さすがにこの状況じゃ初めてポケモンに乗ったというそれに感動する余裕はないし、心拍数は上がる一方。
でもこんなイケメンの顔がすぐ近くにあったら、誰でもそうなるよね?私だけ?

「れれれレッドさん?」
「なに?」
「ててて、手、手!手を離しましょうかっ!」
「…ああ。」

レッドさんは悪びれる様子もなくぱっと私の手を離してくれたけど、レッドさんとの距離は変わりそうもない。
そうだよ。マサラタウンに行くって事をあまり深く考えていなかったけど、シロガネ山の麓からポケモンも持っていない私を連れ歩くなんて行為は危険過ぎる訳で。
そうなると当然の流れのように空を飛んでマサラタウンまでひとっ飛びという事になるんだけれど、その間私とレッドさんは決して小さくはないのだけれど二人で乗るには狭いだろうリザードンの背中に、身体を密着させなければいけない訳で。
私の心臓は、マサラタウンに着くまでもつのだろうか。

「××、どっちがいい?」
「え、え?ど、どっちって?」
「前か後ろか」
「えっ?」
「はい残念。時間切れ」
「ちょっ…!レッドさ…」

レッドさんはくるりと私の身体を前に向かせると、後ろから私の腰に腕を絡めてきた。
どうやらレッドさんは、私の心臓をマサラタウンまでもたせる気がないみたいだ。

「リザードン、マサラまで」

レッドさんの声に反応したリザードンは咆哮を響かせ、両翼をバサバサと羽ばたかせる。
するとリザードンの大きな身体がふわりと宙に浮き始めた。

「レッドさん後ろ!私後ろがいいんですけど!」
「…暴れると落ちるよ」
「えっ…!」

耳元で聞こえたレッドさんの恐ろしい言葉に、私の身体がピタッと固まる。
「下は絶対に見ない事。いいね?」なんていうレッドさんの声が聞こえたけど、レッドさん言うのがちょっと遅いよ。自分の下に広がるその景色と今のこの状況に、私の気が遠くなりそうになったのは言うまでもない。




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