※小長



「ねえ、長次。本読んでよ」

それはある底冷えする夜中のこと。
燭台のわずかな灯りに支えられた薄闇の中、この部屋の住人である中在家長次は読書に勤しんでいた。それは彼の日課であり、いつもの光景である。
そして同じくこの部屋の住人である七松小平太が大人しくしていられないのもいつものことである。
ただ、いつもなら長次に膝枕をさせようとしたり背中から覆い被さるように抱きついたり、接触をしてくるのに、今夜はなぜか布団に寝転がったままであった。
そして冒頭の一言である。

「ねぇ。長次?」

本を読めというのは別に読書しろという訳ではなく、何か物語を読み聞かせてほしい。そんな要望。
ただ、それは特段珍しいものではない。否、珍しくはなかった。
まだ二人に後輩がいなかった頃、小平太は毎夜のように本の読み聞かせをせがんでいた。親元から離れたばかりの寂しさを紛らわすためかもしれないし、ただ同室の長次がかまってくれないのでつまらなかったからかもしれない。
とにかく、小平太には就寝前に長次に本を読んでもらうのが日課となっている時期があった。
その日課がいつの間に廃れてしまったのかは、誰の記憶にも残ってはいないが。

「…嫌だ」
「えー。ケチー」
「読んでやってもお前は途中で寝るだろう」

そう。日中野と言わず山と言わずあちこち走り回っている小平太が、薄暗い部屋であたたかい布団にくるまって、長次の穏やかな声を子守唄に眠ってしまわない訳がない。
その度に長次は自分も眠い目をこすりながら本を片付けて、二つの布団をまたいで寝息をたてる小平太をちゃんとした位置へ移動させて、灯りの後始末をしてやったのだ。
そう言えばあの頃は慢性的な寝不足だったなぁと長次は目を細めた。

「でも、毎晩読んでくれたよね」
「それはお前が私を寝かせてくれないから」
「今夜も寝かせない」
「ふざけるな」

油からほんの少しだけ頭を出した芯の先端でゆらゆら揺れる火を吹き消し、強制的に読書を終了すると長次はそそくさと布団に潜ってしまった。
面白くないと口を尖らせてみるも、鳶色の瞳は小平太の方を見向きもしない。たとえ振り向いたとしても、この暗闇では大して顔など見えないのだろうが。

「ねえ、長次」
「…どうした」
「愛してる」

ぶあつい布地に隠れた頭を抱いて囁くと、睡魔に任せて力の抜け始めていた体が再び強ばった。きっと今、長次の顔は桜色に染まっているのだろう。
二人がただの友人、同室のよしみ以上の愛情を互いに注ぐようになってだいぶ経つが、未だ慣れないのかうぶな反応を示す長次が小平太にはどうしようもなく愛おしくて。
小平太がふふと笑うと、腕の中から不機嫌そうな低いうなり声が響いた。

「やっぱり今日も寝かせたくないな」


と一夜物語
万一夜目だって寝かせないよ

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10万打記念フリリク企画にて、詩郎さんからリクエスト頂きました「小長の文」でした。
リクエストありがとうございました!

詩郎さんいつもほぼ一番乗りにお祝いしてくれて、とっっっっても嬉しいです結婚してください!←
そんな訳で愛情たっぷり注いだんですが愛情よりも妄想が注がれてしまったようです。よくあるよくある。
こんなもので良ければ焼くなり煮るなり好きにしてやってください!

改めて、ありがとうございました^^*

※詩郎さんご本人のみお持ち帰り可です


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