「ゾロ! 海獣出たぞー!」
「見りゃ分かる!」
「肉! 晩飯だあああああ!!」

巨大な海獣の出現で、とても海賊船とは思えない小舟が揺れた。
今にも転覆しそうな舟の上で必死にバランスを取りながら愛刀を抜く。が、くいなの形見を口にくわえる前に海獣は苦しげなうめき声を上げて海面に倒れた。今日もご自慢のピストルは絶好調らしい。

「よっしゃー!」
「飛び跳ねるな、舟が沈む!」

びょんびょんご機嫌の様子でルフィが跳ねる度に舟が右に左に大きく揺れて、不安定さに酔いそうだ。ただでさえここ数日まともに食事をしてなくて意識が朦朧としていたと言うのに。
ルフィの食事を前にしたときの復活の早さには恐れ入る。つられてこっちも元気になるような、逆にますます疲れるような。
しかし、ひとつ問題がある。

「ルフィ」
「ん?」
「陸地が無ぇ」
「そうだな!」
「だから火が起こせねぇ」

さすがに血が滴る生肉のまま食べるのは無理だろう。だから小さく切り分けてここを移動して、陸地を見つけるまで晩飯はお預けだ。
そう言うと、ルフィは憤慨した。おれも怒りてぇよバカ。

「船長命令だ、こいつは丸ごと運ぶぞゾロ!」
「無理に決まってるだろ!」

だいたいなぁ、これまで何度も言ってきたがなんで世界寿の海を回ろうって奴が航海術をもってないんだよ。そんなのゾロだって同じだろ。おれの当初の目的は海を渡ることじゃねぇよ。
そんなお約束の応酬を繰り広げている間にも、どんどん日が暮れて航海が難しくなって。ああ結局今日も晩飯は抜きだろう。ため息を吐くしかない。

「腹へったー…」

さっき風を切るパンチを繰り出し見事に海獣を仕留めた(自分は戦闘態勢にさえ入れてなかったことがただ悔しい)船長は、今度は軟体動物みたいに力が抜けて、水しぶきで濡れた船縁にもたれかかった。せわしないやつだ。

「ゾロ、枕」
「…まったく」

枕、と言われて枕なんか持ってる訳がない。その代わりに腕を差し出した。
ここ数日でできてしまった、不思議な習慣。ルフィはおれをまるで抱き枕みたいにして寝る。昨日は腹に抱きつかれたが、正直なところ空きっ腹をさらに圧迫されるのは辛かった。だから今日は腕だ。

「はー落ち着く」
「そうかよ」
「なんかゾロはすんげー前から一緒だった気がするんだよなぁ」
「はあ?」

何を言ってるんだか。
まだ出会ってから日は浅いが、ルフィの思考は訳が分からない。もし頭蓋を切り開いて脳の解析ができたとしても、理解はできないだろうな。
そんな自由奔放で掴めない船長はおれの腕を枕に早くも眠りの体勢になっている。

「明日こそ陸に着いて、腹いっぱい食おうな、ゾロ!」
「ああ」

おやすみの挨拶なんてすっかり忘れてるんだろうルフィはそれだけ言うと、大切な麦わら帽子を外して目を閉じた。
約束とは言え、とんでもない船長についてきてしまったものだ。
もう何度繰り返したか分からないそれはしかし間違っても後悔なんかじゃなくて。むしろこの腕の重みが、翌朝目が覚めたときの腕のしびれが気にならないくらいには嫌じゃない。
本当に不思議な男だ。

「あ、忘れてた」
「あ?」

まだ起きてたのか。
ルフィは突然ぱっちり目を開き体を起こして。

「ゾロ。好きだ!」

今さらなんなんだ。多少はおれを気に入ったから仲間に選んだんだろ。そんなこと知ってる。
やっぱりルフィは分からない。
だが真正面から好意を告げられるのは悪くない。

「ああ」
「そんじゃおやすみ!」
「おやすみ」

満足げに笑い、早速いびきをかき始めている船長にならって目蓋をおろす。するとすぐに意識は脳の奥深くに引き込まれて。
腹の虫が鳴いた。
空腹は、まあ、こいつもこの前途多難な旅のお供なんだと思うことにしよう。


グッドラック


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ユキヒロ様へ!
73000打キリリクの「ほのぼのルゾロ」です
リクエストありがとうございました!

果たしてほのぼのしているのか分かりませんが…←
ルゾロは二人旅時代からすでに爆発せんばかりの勢いでいちゃらぶしてたら良いと思います((

気に入っていただければ幸いです…!

改めて、リクエストありがとうございました^^*


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