短期遠征から帰ってくると、朝顔が枯れていた。
つい二、三日ほど前まで瑞々しく艶やかだった紫の花弁は茶色く萎れて、地面に首を垂れている。干からびた朝顔は数粒の子孫を残して静かに事切れていたのだった。
ゆるく握れば崩れる花はとても生物のようには見えない。
あまりに急激な命の変遷に胸がすっと冷えるようだ。

「朝顔、枯れちゃったのか?」

背後から降ってきたのは今は医務室で手当てを受けているはずの人物の声で、また無理矢理抜け出してきたのだろうと思うと保健委員に同情せざるをえない。
振り向くとやはり一番ひどい右腕の手当てだけして、あとの細かな傷は全て放置の小平太がいた。
何重にも巻かれた包帯の白さが目に痛い。

「…仕方がない」
「でも、長次が大事に育ててたのに。誰かに世話を頼まなかったのか?」
「そろそろ終わりにしようと思っていた」

朝顔の季節はもう過ぎようとしていた。それに、大切にしていた生物の死を見るのは悲しい。
そう答えると、なぜだか小平太の方が辛そうに眉尻を下げる。

「そっかぁ…」

小平太は水やりこそしなかったが、きっとこの朝顔の成長を楽しみにしていたのだろう。しゅんと落ち込んだ肩を愛しく思う。
小平太の折れた腕は骨が治ればまた動くが、首の折れた朝顔の花が再び上を向くことはない。
弱いいきものは、こんなにも簡単に死んでしまうと知っているから。

「小平太が生きていれば、いい」

枯れてしまったのは悲しいけれど、寂しくはない。
上手に笑うのが苦手な自分が、ちゃんと笑えていただろうか。小平太を安心させられただろうか。
もう少し器用な人間なら良かったのだけど。

「長次がそれでいいなら」

にっこり笑って折れた腕をぶんぶん振り回す小平太。
朝顔がなくなってしまった代わりに、せめて彼はなくさないように。
無事な左腕を掴んで、伊作が待っているだろう医務室へ早足で進んだ。


ありとても頼むべきかは世の中を知らするものは朝顔の花


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素敵企画「文学少年」様に参加させていただきました\(^o^)/

こんな何の捻りもない内容で良いのかとは思いつつ楽しく書かせてもらいましたです!
ありがとうございました^^*


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