16
「“かなさん”」
しばらく続いた沈黙を破ったのは、知念くんだった。
「(…昨日と同じだ)」
昨日よりもずっと顔が赤いけど、真剣な表情は昨日の知念くんのものと同じだった。 彼の瞳が、一直線に私を見つめてくる。
「“かなさん”は、」
もう知念くんの声しか、聞こえない。 金縛りにあったみたいに、1ミリも動けない。
「“好き”っていう意味さぁ」
時が止まってしまったかのような感覚。 そしてだんだんと、知念くんの言葉が私の心に染み込んでいく。
「…二人で帰った日、」
知念くんは続けた。
「ミョウジさん…両親の話したとき、でーじ辛そうだった…」
「ミョウジさんを守りたい……あんな悲しそうな顔、もう二度とさせたくない」
「誰かに対してこんな風に思ったの、初めてさぁ」
「自分勝手かも知れんやしが、」
「わんは、ミョウジさんの寂しさを埋める存在になりたいんやさぁ」
「…でーじ、かなさん」
柔らかな感情が、胸の中で広がっていく。 それはきっと、嬉しい気持ちと、愛しい気持ち。
「…私だって、」
私はそう言いながら、知念くんの両手をとった。 知念くんの手は大きくて、私の手なんかじゃとても覆いきれない。 それでも、
「私だって、知念くんの寂しさを埋める存在になりたい」
私だって、知念くんの悲しむ顔、見たくない。 知念くんの笑顔を、もっと見ていたい。
「好き、だから……」
そこまで言ってしまってから急に恥ずかしくなってきて、思わず俯くと、知念くんがギュッと手を握りかえしてきた。 ああ、あったかい。 顔を上げると、そこにあるのは知念くんの笑顔。 今までで一番、優しい笑顔。 この幸せなときを、私は一生忘れないだろう。
***
自分と彼女が、今、同じ気持ちで向き合っている。 握った手から伝わる、彼女の暖かさ。 この幸せなときを、忘れなどしない。
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