15
白い壁、薬の匂い、窓から流れ込む初夏の風。 目の前には、私の膝の傷口を消毒する知念くん。
私が走り終わったあとの、知念くんの追い上げといったら、それはもう凄かった。 長い脚を存分に活かし、他の走者との間をどんどん広げていく。 アンカーの喜納くんにバトンタッチするころには、後ろの走者との差は歴然だった。 私は膝の痛みも忘れて、風のように走る知念くんに見とれた。
走り終わった知念くんは、真っ先に私の所にやってきて、「あしっ!大丈夫かやぁ?!!」と言ってそのまま私を保健室へと強制連行。 保健室の先生は他の生徒の手当てで手が離せないようなので、とりあえず膝の傷口を洗う。 両膝は擦り傷で真っ赤に染まり、右膝からは足首にむかって一筋血が流れていた。 傷口を洗い終えると、置き場所を知っていたのか、いつの間にか知念くんがガーゼや消毒液を出して待っていた。
「知念くん、あの…自分でできるから…」
知念くんは私の言葉を無視して椅子に座らせ、私の前にひざをついて傷の治療を始めた。 その手つきは、とても慣れている感じだ。 知念くんに触れられたところが、熱をもっていくのを感じる。
「…足かけた女子、二組のやつさぁ」
知念くんは、珍しく怒った様子でそう言った。
「あ…でも、わざとじゃなかったみたい。ちゃんと謝ってくれたし…」
実際、半泣き状態で本当に申し訳なさそうに謝られたのだから、嘘とは思えない。 私がそう言うと、知念くんは顔を上げた。 知念くんはしゃがんでも大きいから、いつもより顔が近い。 ドキドキしてるのを、気付かれてしまいそう。 知念くんは何か言いたげに口を開いたが、何も言わずにまた膝の方に視線を戻した。
「終わったどー」
私の膝はガーゼできれいに覆われ、しっかりテーピングされていた。
「わぁ…すごい上手」
ありがとう、とお礼を言うと、知念くんもやっと笑ってくれた。 知念くんがときどき見せてくれる、この微笑みが、すごく好き。
先生はいつの間にかグラウンドの方に呼ばれて行ってしまったらしく、保健室には私と知念くんの二人だけになっていた。 私は椅子に座ったまま、知念くんは私の前にしゃがんだまま、動こうとしない。 緊張と安らぎがおり混ざったようなこの時間を、もっと感じていたかった。 グラウンドはそう遠くないはずなのに、その喧騒はどこか遠くから聞こえているような気がした。
***
彼女の笑顔に、心が穏やかになっていく。 気持ちを伝えるのは苦手だけど、今なら言える気がした。
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