1
家の都合で沖縄に引っ越してきて一週間。 何となく新しい土地に慣れはじめたものの、沖縄独特の言葉は未だ聞き取れないことが多い。 新しくできた友達と話すとき、みんなは私に気を使って標準語で話してくれるけど、 ふとした拍子に飛び出る沖縄の言葉や、周りのクラスメイトの会話なんかが全く理解できない時も少なくない。 それに、会話が盛り上がっていると「どういう意味?」なんてとても訊けない。 そんなとき、何となく疎外感を感じてしまう。さっきの休み時間もそうだった。
物思いに耽りながら、ぼうっと授業を聞いていると、自分のノートに書き間違えを見つけた。 消しゴムに手を伸ばすと、掴み損なったそれはまるで逃げるかのように転がり床へ。 しかも転がった先は、隣の席の知念くんの足元。 反射的に、消しゴムを追いかけた手を止めてしまう。
転入生である私の席は、唯一空いていた一番後ろの窓側の席、と自動的に決められた。 その席唯一のお隣さん、つまり窓とは逆側に座る男子は、中学生にしては高すぎる身長の持ち主、知念寛くんだった。 転入初日、担任に「ミョウジさんはあそこの席ねー」と言われた時、 隣同士となる男子生徒の背の高さに心底驚き、なおかつ無表情な彼に、完全にビビってしまった。 クラスメイトにも「知念は悪い奴やあらんけど、謎だよねーいろいろ」と言われてしまい(いろいろって何…!)、 これまで一度も話したことがない。
「(どうしよ…取ってとか頼みづらいし、無言で足元に手伸ばすのもちょっと…)」
と私が一瞬悩む間に、知念くんはその長い腕を伸ばして、足元の消しゴムを拾ってくれた。
「…うり」 「あっ、ありがとう…」
予想外の知念くんの行動に驚きつつも、差し出された消しゴムを受けとる。 その時、少しだけど知念くんの指に触れた。 ほんの一瞬の出来事だったのに、知念くんの指先から伝わった熱に、鼓動が速まるのを感じる。
知念くんは消しゴムを渡すとそのまま授業に戻ってしまったので、私も黒板に意識を戻した。 しかし、どうにも隣の知念くんが気になって仕方ない。頬の火照りも、なかなか治まってくれない。
「(え、あれ…な、何?何で…)」
さりげなく横目で知念くんの方を見ると、彼は頬杖をつきながら授業を聞いていた。
知念くんの頬が赤く染まっているように見えたのは、私の気のせいかもしれない。
***
「(や、やっと喋れたさぁ…)」
prev next
|