「ナマエ! 大丈夫か?!」
「あ、あの…ごめん、なさい……」
トレーニングルームに入ると、そこには床に倒れたナマエの姿があった。
焦って駆け寄ると、彼女は怒られていると勘違いしたのか慌てて上半身を起こし、たどたどしく「ごめんなさい」を繰り返した。
先日、日本に住む一般女性が突如“能力”に目覚めて暴走しているという情報が、シールドに舞い込んできだ。
その力があまりに強大なためコントロールの仕方を学ばせなければいけない、うまくいけばアベンジャーズのメンバーに…と、彼女がアメリカに連れてこられたのが一か月ほど前のこと。
そうして、僕とナマエは出会った。
異国の地で仏頂面のエージェントたちに囲まれ怯えるナマエに優しく接しているうちに、どんどん彼女のことが気になっていく自分に気付くのに、そう時間はかからず。
初めは警戒していた彼女の方も、僕の自惚れや勘違いでなければ、今では僕に心を開いてくれているようだ。
ただ、僕とナマエの間には大きな障害がある。
それは、言葉の壁。
生まれも育ちも日本であるナマエは、英語がほとんどできない。
だから彼女との会話は、ごく簡単な内容でないと成立しない。
そのため、僕とナマエのコミュニケーションはなかなか捗らず……。
もっとナマエと仲良くなりたいのに。
話したいことがたくさんあるのに。
言いたいことの半分も彼女に伝わらずに会話を終えるたび、焦る気持ちばかりが募っていった。
「本当に大丈夫なのか? どこか怪我してるんじゃ…」
「えっと、へいき…だいじょぶ」
ナマエは重力を操る能力を持っており、その力を使って自分の体を浮かせようとしたらしい。
そして浮くところまでは上手くいったものの、集中力が切れて着地に失敗し倒れてしまった……ということが、彼女の断片的な説明から何とか理解できた。
床に座ったままのナマエの正面に片膝をついて、彼女の顔を覗き込む。
長時間集中して疲れたのだろう。その額にはじんわりと汗が浮かんでいた。
「熱心なのは良いことだが…無理はしないでくれ、頼むから」
「?? ご、ごめんなさい…」
何を言われてるのか分からなかったのか、ナマエは落ち込んだ様子で再び謝った。
「あぁ、違う…怒ってるわけじゃないよ」
「、怒ってない?」
「うん。ただ、心配してるんだ」
今度はちゃんと通じたのか、ナマエは一瞬キョトンとしてから途端に難しい表情になり、なにかを伝えようと必死に考え始める。
やがて、彼女の口から少しずつ言葉が零れた。
「スティーブやみんな、迷惑ならないように、なりたい」
「スティーブ優しいから、わたし弱いと、迷惑、思って」
「はやく、スティーブの役、たちたい」
彼女の言葉に、胸の奥底が熱くなった。
ナマエは自分のためじゃなく、僕のために…。
彼女を抱きしめたい衝動を抑えつつ、その肩にそっと両手を置いた。
「ありがとう…。でも、きみが傷つく姿は見たくないんだ」
「!! わたし、見たくない…?」
「え? あ、そういう意味じゃなくて…!」
僕の言葉を勘違いしたのか、とたんに表情を曇らせてしまったナマエ。
誤解を解くにはなんと言えばいいだろうかと必死に考えを巡らせ…ついに僕は決心した。
ナマエの目をしっかり見つめ、ゆっくりと息を吸い込む。
「ナマエが、怪我すると、僕もつらい」
「きみのこと…大切だから」
一瞬「好きだから」という言葉が頭をよぎったけれど、なんとなく恥ずかしくなって、言えなかった。
「大切だから」でも十分伝わるんじゃないか、と。
でも、僕の言葉を聞いてニッコリしながら「ありがとう」と言うナマエを見て、ああ失敗したと思った。
たぶんナマエは、僕の言う「大切」の意味をちゃんと分かってない。
やっぱり、好きだと言うべきだったんだろうか? いや、でも……。
肩をトントンと叩かれ、僕はハッとした。
突然黙りこくった僕を心配してか、ナマエが首を傾げて僕を見つめている。
「…なんでもないよ」
そう言いながら僕は、これからナマエに対してはもっとストレートにアピールしていこうと、固く決心したのだった。
difficulty
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くく丸様、、リクエストありがとうございます! 素敵なリクを頂いたのに、なんだか謎な設定まで勝手に付け足してしまってすみません!! こんな駄文ですが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです…! お祝いメッセージもありがとうございます!くく丸様はいつも拍手でも応援のお言葉をくださっていて、本当に励みになります!^^ こんなサイトですが、これからもどうぞよろしくお願い致します! 改めまして、この度は誠にありがとうございました!
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