青益ショートショート | ナノ


何故こんなことに巻き込まれることになったのか。敦子は神社の様子を見に行った兄の顔を思い浮かべながら、悔いた。

――ごめんなさい兄さん。軽挙妄動は慎むわ。今度こそ誓う。

敦子の前では、青木と益田が箸使いを競っている。


***


始まりは敦子の些細な一言だった。

「青木さんって箸の持ち方がお綺麗ですね」

京極堂に新年の挨拶に訪れた二人に千鶴子が、丹精込めて作ったお節で持て成しているときだった。

「そうですか」と敦子の言葉に嬉しそうに微笑えんだ青木をチラリと見てから、益田が「僕の箸はどうですか、敦子さん!」と対抗するように聞いてきたのは。


敦子が答える前に、青木が「益田くんは下手でもないけど、上手くもないよ」とコメントをだしてしまった。

「僕は敦子さんに聞いてるんですよ!」と益田が怒った。「こういうのは僕だけの問題じゃないですよ、今青木さんは僕の母のしつけまで非難したことになるんです!名誉の戦いですよ、これは!」

………正直、敦子は果てしなくどうでも良かった。益田も充分見れるレベルの箸の持ち方だ。お母上も満足されているだろう。というか、益田はもっと別の名誉を重んじるべきだ。例えば新年早々、人の家で言い合いをしないとか。

青木もそこには気づいたらしく「やめなよ。みっともない」と益田を諌めてくれた。

しかし青木の次の言葉は完全に余計だった。

「今から戴くお節をどちらがより綺麗な箸使いで食べられるか、敦子さんに判定してもらえば、すぐ決着がつく」

いやいや、私を巻き込まないで、と思ったが、二人の真剣な顔つきに敦子は思わず「わかりました」と頷いてしまった。


それから7分。敦子は二人の食べるようすを仕方なくじっと見ている。


黒豆をつまみ、鯛の小骨をより分け、数の子をそっと掴むたびに、得意気に敦子の方を見てくる二人を見ている。


男って馬鹿ね、という言葉に秘められた感情を少しだけ分かったような気がした。

「美味しいですか?」
敦子は二人に声をかけた。自分が思わず笑ってしまっているのを感じる。


「えぇ、とても美味しいです」
「こんなに美味しいお節は初めて食べました」

二人ともにっこり笑って答えてくれた。









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