青益ショートショート | ナノ

三人

―――どうした流れで、話が湿っぽくなってしまったのかは忘れた。でも皆疲れていて、ちょっと弱気になっていたのだと鳥口は思う。

「……世間の目が流石に僕でも気になるっていうか。僕自体はどう思われたっていいんですけどね。青木さんが変な目で見られるの、嫌ですし」

益田がブランコに座りながら、寂しそうに目を少し伏せて言う。

青木も何か思うところがあるのか、常とは違って益田の近くに寄ろうともせず、腕をくんで目を瞑っている。そうした二人の態度に加えて、夜の公園は遊具も寂しげで、鳥口にまで寂しさが忍びよってきた。

言ってもしょうがないことだって分かってるんですけどね、と益田が言う声は消え入りそうだった。

ブランコの支柱に凭れていた体を起こし、鳥口は鼓舞するように大きな声を出す。

「ハイ、この話題はもう止めましょう!」

こんな気持ちでいるのは性に合わない。

「悲しくなっちゃう時もそりゃあるでしょうけど、わざわざ考えて悲しくなる必要ないっすよ。っつー訳で、しりとり大会でもしましょう。ハイ青木さん、『りんご』の『ご』!」

突然話を振られた青木が目を瞬かせながらも、のってくる。

「…『ご』?ごま豆腐…」
「渋っ!青木さん、渋いっすよ」
「『ごま』で止めないで、『ごま豆腐』ってどんだけ好きなんですかァ?」

意外な食べ物の名前が出てきた、と鳥口が自分が提案したゲームであることも忘れて突っ込みを入れると益田も乗ってきた。青木の表情もいつものように柔らかなものへと戻ってくる。

「あ、ごま豆腐を笑ったね、君達。今後ごま豆腐が食べたくなったら僕に許可を取りなよ。『あの時ごま豆腐を笑いましたが、食べたくなりました。どうしましょう?』って」
「ひどいっすよ!あぁ、でもやっぱ、そんな食いませんから大丈夫かもね、益田くん」
「ですね。嫌いなわけじゃないですけど、あまり食べませんよね」

益田と一緒になって揶揄すると、青木がふざけて肩をすくめてみせた。

「ま、君達も、もう少し年を取ればあの味がわかるようになるよ」
「青木さん、語りますねぇ!」
「まぁね」

笑みを浮かべた益田が鳥口の方を向く。

「そんなに青木さんが言うなら、今度三人で美味しいごま豆腐を食べに行きましょうか、鳥口くん」
「そうだね、行こう!」
「ほら、早速食べたくなってるじゃないか。僕に何か言うことは?」
「え〜っと、なんでしたっけ?益田くんは前半を覚えてくれてるはずだったよね?」
「え、鳥口くんが前半のはずでしょうに」
「なら二人とも後半は言えるんだろうね?」

青木が笑って聞くのが可笑しくて、鳥口は益田と顔を見合せて笑った。

―――湿っぽくなっても三人いれば、いつだって笑いとばせるとも鳥口は思う。






[ 2/37 ]

[*prev] [next#]
[戻る]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -