その1
※益田総受けになりそうでならない青益で、かなりアホなノリの話です。ご注意ください。
その1は対羽田さんです。
よろしければどうぞ↓
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「そういえば昨日銭湯で羽田さんに会ったんですよ」
益田のその言葉に青木の酔いは一気に醒めた。
「…え?誰に会ったって?」
「だから羽田さんですって。ほら、青木さんも最近よく会うじゃないですか」
「いや、誰かは分かってるよ。大丈夫。けどさ、ちょっと…」
…羽田と銭湯で!?あんな助平爺には、服を着ている益田にも会わせたくないのに、銭湯で!?さすが助平爺というか、なんというか。目のつけどころが違う。
「…銭湯で会ったのは昨日がはじめてかい?」
「はい。お金持ちですから、当然のごとく豪勢なお風呂がお家にあるらしいんですが、今改装してるって言ってました。しばらく銭湯通いだって笑ってましたよ」
嘘くさい理由だ。屋敷をいくつも持ってるくせに。風呂も同じだけ、いやそれ以上にあるだろうに。
気づかない益田も益田だ。まぁ、あんな爺に目をつけられ、あまつさえ好意と呼ぶには余りに下品な感情を向けられているなどとは、自分だとしたら、いっそ知りたくない気持ちもあるので指摘をするのは止めた。
とりあえず今日は会わせないために、昨日会ったという益田の下宿近くの銭湯は避け、青木の下宿近くの銭湯に誘って、早々に飲むのを切り上げた。
***
番台に金を払って入り、空いている棚へと二人で向かう。
普段の風呂は下宿先のを借りて入っているが、泊まりに来た人間まで入れてもらうのは気がひけて、互いに最初から泊まる気で部屋を訪れる際には一緒に銭湯に行くことにしている。
益田は、時折下宿の風呂に入らずに銭湯に行くほど銭湯が好きらしく、いつも楽しそうだ。
「僕、青木さんとこの近くの銭湯の方が湯が熱くて好きなんですよ」
シャツを脱ぎながらそう言って笑う益田の背後に、残念ながら最近よく遭遇する男の姿が見えて、青木は言葉を失った。
「おぉ、益田やないけ。どないや、元気にしとったか」
ニヤニヤしながら、手まで振って寄越してくる。
――白々しい。絶対に益田くんが居るのを知って来たくせに。なんだ?尾行でもついてるのか、僕達には。
青木は不快な人物を黙殺して、益田に脱いだシャツを羽織らせた。
益田は一切羽田の思惑には気づかぬ様子で、へらりと笑う。
「あ、羽田さん。そりゃ元気ですよ。昨日も会ったばっかりじゃないですか」
「そやった、そやった。もう儂も耄碌してもたみたいやな。年はとりたないもんや」
そうして羽田は「おおっと」などとよろけるフリをして益田に凭れている。
―――この助平爺が。油断も隙もない。
「大丈夫ですか」と心配そうに声をかける益田をジジイから引き離す。
「こんばんは、羽田さん。今日はもうお帰りになって、しっかり睡眠を取られた方がよろしいんじゃないですか」
「なんや、またお前かい」
羽田が睨んでくるが、そんなものに怯む青木ではない。
「僕は益田くんと非常に仲が良いですからね。一緒にいたところで不自然ではないですよ、貴方と違ってね」
「ふん。儂はこれから仲よぉなるんじゃ。お前が帰れ」
「お断りします」
青木に舌打ちしてみせて、羽田は益田の方へといやらしい笑みを浮かべた。しかも、それにとどまらず、益田の身体をぺたぺたと触りはじめた。
「しっかし、お前細いのぉ。ちゃんと食ぅとるんか」
くだらない言い訳はやめろ。
その腕をへし折りたくなる衝動に耐え、青木は益田を引き寄せて羽田から遠ざけた。
「どないや、この後、飯でも食わへんか」
それに気にするようすもなく羽田は益田に話しかけ、益田は答えながら青木を見る。
「そう言われても、僕たち軽く飲んできたばっかりなんですよ。どうします、青木さん?」
「腹が減っているかは関係ないね。この男と飯なんて、御免だ」
もう少し遠回しに言うべきかとも思ったが、逆に親切な気もしてそのまま言うと羽田が怒鳴ってきた。
「んなもん、こっちかて同じやぞ、青木ィ!おい、益田。その兄ちゃんは疲れとるみたいやから、先ぃ、家に帰したれ。儂と二人で食おうやないか」
「疲れてなんかいませんよ。僕は若いですから」
「そんなら、銭湯の周りでも走っとけ。あのな、儂はお前に聞いてないんや。益田に聞いとんねん」
「直接言われたら可哀想だから僕が言ってあげてるんですよ。益田くんは貴方と食事には行きません。この後は、僕の家に一緒に帰って寝るんです。耳が遠いかもしれませんからもう一度言いますね。僕と・一緒に・寝るんです!」
「ほんっま憎たらしい餓鬼やのぉ!」
羽田が怒鳴ってきたのに対して、冷笑で返す。その状況にようやく違和感を覚えたのか、益田がポカンとした顔で青木を見ている。
いつの間にか脱衣場にいた人間は、帰るか、浴場へと入るか引き返したかで誰もいなくなっていた。
今日は羽田もこの辺で引き下がるだろう、と青木は考えたが、飛ぶ鳥落とす勢いの羽田製鐵会長は流石にしぶとかった。
「津村!津村ァ!」
突然己の第一秘書を呼ぶ。
「なんでしょうか」
即座に津村が現れた。凄い。
「この銭湯の親父にゆうて、この銭湯丸々買うてこい!」
「承知しました」
去っていく津村に「しっかり値切るんやぞ!」とケチ臭いことを言ってから、青木達の方を振り向く。
「どないや。もうこの銭湯は今から儂のもんや。好きぃに出来る。そういう訳やから、その益田の横に立っとる兄ちゃんはとっとと帰ってもらえるか」
「え、羽田さんさっきからなんでそんなに青木さんにキツいんですか?」
「お前、まだ分かっとらへんのかい!」
「はい?」
青木は益田の腕をさらにひき、軽く抱き寄せて見せた。
「帰れというなら帰りますよ。ただし益田くんも連れてね」
そのまま引き寄せた手で益田の頭を撫でると、罵声が飛んでくる。
「あぁ!お前ホンマ!なに触ってくれとんねん、はよ帰れや!」
「さぁ帰るよ、益田くん」
「せめて体だけでも洗って帰りましょうよ。勿体ない。ねぇ羽田さんその位良いでしょ?」
鈍い益田に苛立って、青木は益田の首筋に吸い付いた。
「ち、ちょっと青木さん!」
肌にぽつんと赤い跡がつく。
「これでもまだここに居るかい?」
「か、かか帰ります!こんな跡つけて銭湯に居られませんよ!」
どうだと言わんばかりに青木が羽田に振り返ると、羽田が文字通り地団駄踏んでいる。
「覚えとれよ、糞ガキ。いつか痛い目ェ見したるからな!」
「受けてたちますよ」
そんな三流の台詞を吐く人間に負ける気は一切しなかった。
しかし勝つのは当然としても完膚なきに叩きのめしてやらなきゃ気がすまない。
見せつけるように強く益田を抱き締めた。
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前サイトの拍手で頂いたコメントの中の、「牽制する青木さん」という風な素敵なフレーズから、牽制する青木さんを書きたくて。
羽田さんファンの方、すみませんでした…。私も羽田さん好きです。実力主義で人を見るところとか。
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