(2)
「あ。あれは覚えてます?益田さん」
「え、なになに」
「ほら、一昨年の花見!」
「あー!亀ちゃんと僕で花見の場所とりに行かされたやつ?」
「そうそう、それっすよ。あの時の…」
廊下の長椅子に座る益田に立ったまま話し続けながら、亀井は益田の隣に座っている男をこっそりと見た。
童顔の真面目そうな(そして事実、真面目な)東京から来た刑事は今、口の端が僅かにぴくりと動いたのを隠すように口を一度開いてまた閉じた。
面白くないと思っているけれど、それを言うつもりはない。そんな顔をしていた。
――この人でも、こんな顔するんだな。
学生のように見えることもある穏やかな男なのに。
気を紛らせるためか何度も脚を組み変えるのを見ていると面白くなってきて、亀井は笑ってしまった。
「えー、なんだよ、亀ちゃん。それでどうしたの?」
「いや、ちょっと」
密やかな優越感を覚えたのだとは、言えないし、言う気もない。
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前サイトの拍手で、青木さんが一番嫉妬するのは益田くんの刑事時代を知ってる山下さんや亀ちゃんなのではという、とっても萌える話を聞いて書いた神奈川話。
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