海の底で息をする
口づけを求めて青木を見上げれば、啄むようなそれが降ってくる。
行為だけはひどく甘い。想いの欠片のようなものは、きっと互いに感じている。
だが。言葉にしてしまうにはあまりに長い時間がかかってしまっていた。一言や二言で、それを心から信じあえる気がしない。
―――そんなわけない。彼が自分に好意を持っているはずない。
傷つくの恐れて、想いをたちきるため、必死に自分に言い聞かせた言葉たちは呪文であったようだ。今でも僕の心を縛る。
真摯な眼差しを真正面から受け止められない。愛の囁きに言葉を返せない。
青木が唇を離して、僕の髪をすく。その手つきの優しさも幻に思える。きっとこの後、紡がれる言葉も。
「好きだよ」
ほら、やっぱり。
何も答えずに、青木の上着を脱がせようとすれば押し留められた。
「こういうこと、しばらく止めないか」
「…飽きちゃいましたか」
「違うよ。僕は君を大切にしたいんだ。今までのやり方は間違ってた。もっと、もっとさ、君を…、こんなはずじゃなかった…!」
脱がせようとした益田の右手を掴んで、青木が苦しげな表情を見せる。
「…こういうことを僕らから取れば、何が残るって言うんですか」
試すような、すがるような残酷な言葉を吐いた。自分で言った言葉が自分に滲みて、馬鹿みたいだと思った。
行為だけでは満たされない。しかし心を手にいれることに失敗して、行為までも失う危険を冒す気になど毛頭なれない。
何か言おうとした青木の唇を塞いでもう一度上着に手をかけると、今度は制止されなかった。
「くそっ……」
のしかかる青木が吐いた乱暴な言葉に、引きちぎるかのようなシャツの脱がせ方に真実を見たような気がしたが。
きっと、そんなわけない。
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タイトルは「彼女の為に泣いた」様からお借りしました。
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