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巡り会う混じり合う≪4≫




「ここは目立ちますから、外に行きましょう」

益田がそう言って扉を押し開けて外へと出ていくのに、山下はただついて行った。建物の裏へとまわり、小さな誰もいない空間に二人でたたずむ。

山下は話すのが嫌いだとかそういうことは一切なかったが、日常的な会話というものに関して口数の多い方ではなかったから、益田が黙っていると自然と沈黙がおりてしまう。

しかし会話せずとも穏やかな空気が流れる、益田との沈黙は決して嫌いではなかった。喧嘩のあとである筈なのに、その空気は存在していて、益々離れがたい気持ちになる。

目の前で顔を伏せている男にどう謝罪を切り出せば良いのかを悩んでいると益田が山下の胸に頭を寄せてきた。

何がなにやら分からぬまま、山下がその体に触れると風呂上がりの薄着の体はすっかり冷えていて、少しでも温もりを与えてやれるよう、抱え込む。


「…明日、お前は何をしたいんだ?」
「え?」
「店で何か言いかけていただろう。やりたいことがあるなら…、何かして欲しいことがあるなら、お前から言え。我慢されていると思う方が腹立だしいんだ」


益田に対して気持ちをじっくり話すのは初めてだった。

流れるままに任せてきた。散々抱いておきながら、好きだとすら言ったことがない。これまではそれでも上手くいっていたように勝手に思っていたが、言葉にしなければならないこともあるのかもしれない。


益田は静かに聞いている。何を期待するわけでもないが、決して無関心ではない瞳がまっすぐに山下を見ている。


「いいか。気を遣い過ぎるんじゃない。お前がぐずぐず悩んでいても、私にはすぐには分からんことぐらい知っているだろう」
「…なんですか、その発言。気持ちを汲もうとする気が最初から全くないじゃないですか」


軽口を叩きながらも、益田が泣き笑いのような表情を見せた。

ふと思いついて体を離す。そうして自分の外套を脱いで、部下の体に被せると抗議の声が上がった。


「えぇっ、大丈夫ですよ。山下さんが風邪引いたら…」
「うるさい。黙ってろ」
「…なんですか、言えって言ったり、黙れって言ったり」

楽しそうにくすくすと笑う声に安堵した。

とりあえず喧嘩は終わったと見てよさそうだ。


濡れた髪に指を差し入れると、益田が微笑んだ。瞳がいつもの悪戯めいたものに戻っている。労るような、からかうような、この瞳を見ると満たされる。


好きだの、なんだのと言ってやれれば良かったが、それは後回しにして、部下の身体をきつく抱き締めた。








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