巡り会う混じり合う≪3≫
「益田さん!ちょっと早く来てくださいよ!」
「なんだよ、亀ちゃん」
風呂からあがり、周りの話に適当に相槌を打ちながら益田が着替えていると、先に寮の共同風呂から出て行っていた亀井が息急き切って戻ってきた。
「いや、山下さんが表玄関のとこ来てるんすよ!何しに来たのか聞いたら、益田を呼べって」
「え…」
「災難っすねぇ。益田さん」
「う、うん。ちょっと行ってくる」
頑張れ、と周りに肩を叩かれた。相変わらず人望の無い人だ。
髪もろくに拭かずに服を着て出て、廊下を走る間も信じられない。
―――なにしてるんだ、あの人。
あんなに言ったのに。ただでさえ部下に人望がないのに。変な噂までつけて負担になどなりたくなかったのに。
表玄関までたどり着いて、山下を見ている今でさえ信じられない。
「山下さん…?なんで…」
問いかけると不機嫌そうに睨まれた。
「分かり切ったことを、いちいち聞くな」
仲直りをしにきた、と思っていいのだろうか。その割には喧嘩腰の通常営業だ。
そもそも、何を不用意なことをしているのだと呆れなければならないところであったし、事実呆れていたけれど。
嬉しい気持ちがそれを遥かに上回っている。
喧嘩のあとからずっと感じていた寂しさが消えていた。
きっと不安だったのだ。本当に隣に居ていいのか。目の前の男の、隠れた優しさにつけこんでいただけで、自分は付きまとっているだけに過ぎないのではないのか。好きなのは、関係を維持し続けようとしているのは、自分だけなのではないか。
ものわかりのいい人間でいようしていた癖に、何も分かっていなかった。
やはり山下のきつい言葉など挨拶くらいに思っていて丁度良い。わざわざ寮にまで来てくれただけで、もうそれだけで満足だった。
山下に、隣にいることを本当に許された気がした。
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