巡り会う混じり合う≪2≫
山下はグラスの酒を一気に煽った。
―――また、やってしまった。
益田の唇がきつく引き結ばれ、瞳にうっすらと涙が滲んだのを見て、これは本格的にまずいとは思った。
思いはしたが、ここで挽回できるようなら、そもそも口論にはならないのだと妙な諦めが襲い、外套を引っ付かんで店の外へと足早に出ていく益田の細い後ろ姿に言葉をかけるのを止めてしまった。
どうせ上手い言葉など出てこない。カッとなって何かひどい言葉をさらに投げつけてしまう可能性すらあった。
椅子から立ち上がった時の、益田の張りつめた表情を思い返す。激怒された方がマシだった。泣くところなど見たことがない。…それとも自分が居ないところでは泣くのだろうか。
それは、どこか寂しい。
よくよく考えてみると、これまで益田に謝った覚えが全くなかった。
優しさに甘えていたことを自覚させられた。我慢を重ねていたのだろうか。へらへらと笑う顔の下で。
―――なんだか癪にさわる話だ。
酒をそのまま飲み続けていると、再度泣きそうな部下の顔が浮かんで店を出た。
冷気が体を包んで、酔いが少し醒めた。
何をどう謝ればいいのか見当もつかないが、会えばなんとかなるだろう。
そう唐突に思った自分はまだまだ酔っているに違いない。
おそらく益田は寮に帰っている筈だ。どこかに立ち寄ったところで最後には寮に帰ってくるのだし、なんなら部屋の前で待っていれば良い。
部屋がどこだか分からないが、誰か寮の中にいる奴に聞けば分かるだろう。
『寮にいる全員が警官なんですから、当然みんな山下さんを知ってるんですよ?捜査主任何回やってると思ってるんですか。仕事が終わっても僕なんかとずっと一緒にいるなんて噂になると、山下さんが困るでしょう』
そう真剣に何度も言われて、これまで寮の付近を一緒に歩くのも止められていたが、そんなことはもう知るものか。
噂などしたければ勝手にしろ。
大事な人間が離れていくかもしれぬという時に周りのことを気を回していられるような器用さは自分にはないし、そもそもそんなものに必要性を感じない。
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