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浮遊した彼の心臓

≪学園パロ。益田くん中学生、司さんは保健室の先生。苦手な方はご注意ください≫




「ちょっと職員室行かないといけないんだけど、留守頼まれてくれる?」
「えぇ?僕、怪我人が来ても、手当てなんて出来ませんよ?」
「いやいや、益田ちゃん。その時は僕を職員室まで呼びに来てね?頼まれ過ぎだよ」

司はそう言って笑い、くしゃくしゃに益田の髪を撫でまわしてから保健室を出ていった。

――凄い怪我人が来たらどうしよう。職員室まで走って五分もかからないけど、僕の足の速さで助かるか、助からないか、みたいな怪我人が来ちゃったら職員室まで電話した方が良いのかな。でも、職員室の電話番号なんて知らないし!あぁ、どうしよう…。

保健教諭の司に会うために、保健室に入り浸るようになって随分経つけれど、留守番を頼まれたのは初めてで、落ち着かない。

怪我人がこないか廊下を覗いてみたり、保健室の中をくるくる歩いてみたり、とにかくソワソワした。

しかし、そうやって30分ばかりも経つと、日々入り浸っている経験から、怪我人などあまり来ないことに思いあたって、椅子に座っていられるようになった。それでも頼まれているという気持ちはあったから、足が落ち着かずブラブラしてしまう。

放課後の校内はシンとしていて、でも校庭からは野球部の練習する掛け声が聞こえていたから寂しくはなくて、不思議な気持ちになる。


きょろきょろと椅子から保健室の中を改めて眺めていると、身長計が目にとまった。まわりは背がどんどん伸びていくのに、益田はまだ一年生の時より1センチしか伸びていなくて、二年になったばかりの今年の春の計測ではかなり落ち込んだ。


――もしかして、気づかないだけで伸びているかもしれない。

一人で身長計を見ていると、そんな気持ちが湧いてきた。もし伸びてなかったとしても、今なら誰も見てないから、まだマシだ。みんなで一斉に測るのが、つい人と比べてしまって嫌になるのだ。

誘われるように近づき、靴下のまま身長計に乗った。本当は脱がなくてはいけないけれど、靴下の厚みを自分へのサービスにしたい。背筋をぴしりと伸ばし、そろそろと計測部分を持って、頭に下ろしていく。

そこで扉ががらりと開いた。

「なーに、やってるのさ、益田ちゃん」
「せ、先生!えっと、これは…」
「いいよ、いいよ。そのままで。えぇーっと、156センチだね」
「ぜ、全然伸びてない…」

悲しくなって、そのまま座りこむと司にまた頭をくしゃりと撫でられた。

「まだまだこれからだよ。それにさ、可愛くて良いじゃない、今の身長もさ」
「可愛いなんて、嬉しくないです…。僕だって男ですから…」
「えぇ〜、可愛いって嫌?まぁ、好きだよーってことだから、気にしないで」

気になって顔をあげると、笑顔の司と目が合った。


「そうなんですか?」
「そうだよ。嫌いなものに可愛いって言わないでしょ?」
「それはそうかもしれませんけど…」

何故か気恥ずかしくなる。

「うん、可愛い、可愛い。益田ちゃんは可愛いよ」
「分かりましたって!でも僕はもっと伸びますから!」

低い身長は少しだけ気にならなくなった。

でも、好きだよー、好きだよーと、言われるがままに翻訳してしまって、顔が赤くなるのをとめられない。

窓から射し込んでくる夕陽が誤魔化してくれるように、心から願った。






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タイトルは彼女の為に泣いた様からお借りしました。


過去サイトでのリクエスト。学園パロで益田受け。







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