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プリーズ・ステイ・ウィズ・ミー(本益)

「ね?お願いします」

そう言いながら、本島は自分の指を益田の薄い唇の中へと含ませた。益田は素直に受け入れて、ちゅうと吸い付くように舐めてくる。

組み敷いた男の、すでに一度達して上気して赤く染まった頬と潤んだ瞳が扇情的だ。

だが、そのこと以上に、いつだって軽口ばかりを叩いて返してくる男が熱に浮かされて、自分の言うがままになっていることにひどく情欲をそそられた。これは倒錯趣味に入ってしまうのだろうかと自問自答をしてみたが、まだ大丈夫だという結論に行き着いた。これといって根拠はない。

軽口を叩いて楽しそうにしている所を見るのも、とても好きなのだけれど、たまにはこういうところも見たいと思う時もあるのだ。

指に絡みつく舌が熱く、柔らかい。指を濡らすためだけのつもりであったけれど、暫く楽しむことにした。歯列を指の腹でなぞり、口腔を荒らしていく。

「ん、…っふ」

漏れる吐息が色めかしく、本島は益田の裸体を上から順に眺めた。すでに身体のあちこちにつけた痕が白い肌によく目立っていた。それでもまだ足りないように感じて、指を咥えさせたまま、首筋へと軽く歯を立てて吸い付いていると、指に痛みが走った。

「あ、痛っ」
「いつまで、そんなっ」

軽く噛んだのちに吐き出された指を空中で上下に振る。驚きが勝って言葉について出ただけでそこまで痛くはなかったが、なにも噛まなくても、と思いながら年上の恋人を見下ろす。しかし焦らすなと言わんばかりに腰を擦り付けられて、何か言い返す気が失せてしまった。込み上げてきた笑みで応えて、その仕草に従い、彼の唾液で濡れた指をさらに自分のものでもたっぷりと濡らして後孔へと差しいれる。

「んっ」
「大丈夫ですか?」

無言のまま首へと縋りついてくる益田のさらりとした髪へと口づけを落として、反射的に指を押し返そうとする肉を掻き分けていく。彼の腕がぎゅうと力を籠めてくるのが愛しくて、唇を重ねた。口蓋や、歯の裏を舌でなぞり、熱い舌と舌とを絡ませる。触れ合う肌が、吸い付くように汗ばんで濡れていて心地いい。

指も根元まで含ませて蠢かせると、息をのむのが伝わってくる。前立腺裏の快所を擦り、ひくりと痙攣とさせる内股の震えと上がる声に気をよくしながら、彼の前へと触れると、先程達したばかりのものがまた力を持ち始めていた。引き抜いた指で触れて刺激すると濡れてきたものを指にまた絡ませ、本数を増やして後孔へと宛がい、より大きなものを入れられるよう広げていった。もう片方の手で胸の飾りを弄る。

「ぁあ…ぅ、あぁっ」

堪えきれぬというように零される嬌声に、脳髄から刺激される。自身の下肢に熱がさらに集まるのを感じた。挿れますよ、と囁くと何度も頷いて応える益田の脚を抱え上げ、後孔に猛った自身を沈めていくと、ひと際大きな声が上がった。

卑猥な収縮を繰り返す内壁がぐっと絡みついてくる。一気にもっていかれそうになるのを堪え、律動を始めた。合わせて揺れる身体があられもなく乱れて、嬌声が上がり続ける。同時に前も扱くと益田の閉じられた瞼から、はらはらと流れた涙を舌ですくう。

「あ、あぁっ、やぁあ」
「益田さんっ」

角度を何度も変えては何度も深く口づけた。舌根を吸い上げると、益田が甘い吐息を零した。飲み下せなかった、どちらのものとも分からない唾液が彼の口の端から伝い落ちていく。

だらしない水音と穿つ音、互いの荒い呼吸だけが、狭い自分の部屋に満ちる。胸の飾りに軽く歯を立てると、組み敷いた身体が大きく跳ねあがった。

勢いよく引き抜き、最奥を狙って突くと、大きく身を震わせて益田がのぼりつめた。その瞬間、仰け反る背中を支えながら、きつく締めつける中に自分も精を放つ。

白く染まる思考の中、強く抱きしめて、荒い呼吸が治まるのを待ちながら余韻に浸る。

身体を繋げたまま益田の額に張り付いた長い前髪を払って顔を覗きこむと、未だ鎮まらない呼吸を繰り返す彼が薄目を開く。視線が合うだけで、落ち着きかけていた頭が揺さぶられるようだった。

ぼうっとした瞳で見つめて寄越す恋人の鎖骨に更なる痕をつけていると、髪に指を差しいれられ、ぎゅっと髪を引っ張られた。

「痛っ」

今度はそれなりに痛かった。


***

「すみません」
「あーあ、銭湯に行けませんよ。こんなに痕をつけられちゃあ」
「だから、すみませんでした」

言い分はもっともであったから、本島はぺこりと頭を軽く下げた。互いに全裸で向き合って座るこの状態はなんなのだろうと胸中で独りごつ。

「誠意が見られませんよ、誠意が。頭を下げればいいのかね、ってこないだ依頼人に言われた時は、頭を下げろって言ったのは貴方でしょうにって少々ムカッときましたが、今ならあの気持ちが分かりますよ。本島さん、頭を下げればいいんですか」

羞恥に加えて、年上の余裕というものを持ちたいようで、益田は行為のあと暫く経つと、いつも軽口が増す。ケケケと笑うのも相変わらずだ。

照れ隠しの中級者版だと思うことにしている。

そうしたところも可愛いと思ってしまうから逆効果なのになぁ、なんて。常識人から程遠い感性が生まれてきてしまうのは仕方がない。何故ならば。


「益田さん」
「なんです?」

呼びかけると、にっこりと満面の笑みが返ってくる。可愛らしい。おそらく、今さっきの軽口の応酬で勝利を収めたことで大満足、といった笑み。

きっと、ほんの少し勘違いをしている。確かに益田の方が口はよく回るけれど、言い負かした、と誇らしげに見せる、この笑みを見たくて言い返さないことだってたくさんあるのだ。純粋に負けているときも同じくらい多いのは、あまり認めたくないところであるけれど。


「好きですよ。大好きです」


真正面から瞳を捕えて言うと、目の前の顔がカッと赤く染まった。

そのことが嬉しくて華奢な身体を抱きしめて何度も何度も囁いた。





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タイトルは「白群」様からお借りしました。


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