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土砂降りの雨。
下駄箱前、目の前には仁王雅治。
立ち尽くす私。


『あの、』


雑誌で見た、あの、
"傘忘れたふりして好きな人の傘に一緒に入れてもらっちゃえ!!"
ってアレ。
こんなの無理だよなー、と思いながら雑誌を見ていた私。
それをふと思い出して、なぜだか声をかけてしまったこの状況。
ど、ど、ど、どうしよう!!!


「なんじゃ」

『あの、えーと…』


傘は持ってる。そこの傘立てにも。鞄の中にも。
この状況で、嘘、つきますか。
あー…、女の子は平気でこんなことするんだろうけど


「どうしたんじゃ?」


仁王雅治がこっちを見ている。
こ、こわいー…。全て見透かしているようなその目…。
…よし、こうなったらやけだ。言ってしまえ。


『あのさ、傘忘れちゃって、よかったら仁王の傘に「すまんの」

『え、』

「俺も傘忘れたんじゃ、お前さんも濡れて帰りんしゃい。じゃあな。」


冷たくそう言い放って仁王雅治は私に背を向けた。
私はただ、その彼の背中をみていた。
失敗した。気付かれたのか、それとも、ただ単に嫌われていたのか。
無言で昇降口を出るはずの仁王雅治が足を止めたのは
傘立てのちょうど横。
彼は黙ってそこに手を伸ばす。



手に取ったのは私の傘。



『えっ』


振り返る仁王雅治。


「嘘はいかんぜよ。」

『!』



やはり、気付かれていた。
最悪だ。嫌われた。もともと嫌われていたのかもしれない。



「俺を入れてくれんかのう」

『え?』

「傘、あるんじゃろ?」


一瞬理解が出来なかったが、彼の言っていることは単純だとようやく理解した。


『あ、うん。』

「俺は優しい男じゃよ、濡れて帰れなんて本気で言う訳なかろ」

『!!』


すべてお見通しということか。
まったく、この人には頭が上がらない。


「この俺をだまそうなんて100年はやいぜよ。」



雨、ペテン師





傘立てにある仁王雅治の傘には気付けない私。


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