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土砂降りの雨。
立ち尽くす私の後ろで女子の話声。
「雨とかサイアクだー…。」
「何言ってんの、雨はチャンスだよ!!」
お前こそ何言ってんの、と私は心の中で突っ込む。
雨なんて濡れるだけだ。傘差してても濡れる。
おまけに今日の私は傘を忘れるという最大のミスをしてしまったのだ。
先日の雨で濡れたので乾かしていた折り畳み傘をそのままにしているから、今の私は傘なしで雨に対して丸腰だ。本当に最悪。
「なんで、チャンスって何？」
「えっとね、傘がないーって困ってる女の子がいたら、ヤサシー男の子が、ってあっ!!」
女の子たちの会話が止まった。彼女たちの目線の先には同じクラスの丸井ブン太。
てかさっきのハナシ、…なるほどね。女子たちはそんなことを日々考えながらこんな最悪の雨の日もそんな素敵なオオジサマイベントへと変えるのか。
幸せな生き物だなー…。
まあ、かくいう私も女子なわけだが。
「丸井くんってかっこいいよねー」
「ねー、ってまさか。」
「へへーっ、今日は一緒に帰れないかもしれないやっ、ごめんねー」
「はいはい、がんばれー」
もっていた傘を友人に押し付け
雨をチャンスと言った女子が丸井ブン太の元へ駆け寄る。
なるほど、彼が"ターゲット"なわけだ。
ていうか、傘持ってるのかよ。もったいない。私が欲しいのに。
なんて考えをよそにその女子は丸井ブン太へと声をかけた。
「あのね、丸井くん」
「ん？」
「私、傘忘れちゃってー…そのー…」
くだらな。
そう心の中でつぶやいた私は、足早に昇降口を出た。
雨が降ってる。あー、寒い。最悪だ。
少し歩いただけでびしょ濡れ。
さっきの女子みたいに、私はこの日を男で素敵に変えようなんて出来ないしそもそもそんな気は起こらない。
最悪の日は、最悪で受け止めよう。
「おい!!」
そんな思考は後ろから強く呼びかけられることによって止まった。
振り返るとそこに立っていたのはさっきあの女子に捕まったはずの丸井ブン太。
『なにしてんの？』
「なんでこんな雨ふってんのにそのまま帰ろうとすんだよ。」
『傘ないんだからしょうがないじゃない。』
「誰かに声かけりゃーいいじゃん。」
『嫌。』
なんで私があんな女子たちとおんなじことしなきゃなんないのか。
傘忘れたなんて嘘だと思われたらそれこそ最悪だ。
「じゃあ、俺がいれてやっから。」
『要らない。』
このまま丸井ブン太の傘に入るのはなんだか癪だった。
今日は最悪の日にすると決めたのだけれど、こんな意味もない口論を
こいつとすることになるなんて、もっと最悪だった。
「なんでだよ！別に入ればいいじゃん！」
まったくその通りだった。しかし無駄にプライドの高い私には一度意地を張っておいて
そのあとへらへらとやっぱり入れてくださいなんて言えるわけがなかった。
『いいって言ってんでしょ！…そう、私もうずぶ濡れなんだから今更傘に入ったってしょうがないじゃない』
「そのままじゃ風邪ひくだろぃ」
『なによ、余計なお世話。雨に濡れるの好きなのよ！わざと傘も家に置いてきたの!!』
なんだこの言い訳は。
我ながらハチャメチャだと、そう思った矢先
「ふっ、あははは!!」
丸井ブン太は笑い始めた。
なんだか恥ずかしくなった私。
『ちょっと、笑わないでよ…。』
「わりぃ、だって、なんだよその言い訳」
『…』
「でもアレだな！たまにはいいかもな」
『は？』
そういった丸井ブン太は傘を投げ捨てた。
「俺も濡れてかーえろっ」
『はぁ？』
「んじゃ、かえろーぜ!」
呆れた。まったくこいつは何を言ってんのか。
つかそもそも私あんたと帰るなんて一言も言ってないんだけど！
「つめてー!!あははは」
『馬鹿じゃないの、』
土砂降り、傘なし。ずぶ濡れの二人。
「こんな雨の日も楽しめちゃう俺、天才」
『うるさい馬鹿』
「お前も楽しいだろ！笑ってんじゃん！」
『うるさい馬鹿!!』
雨、チャンス
結局濡れてるけど、最悪ではなくなった。かな。
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