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まだ冷たい初夏の風が頬をかすめる







『やっぱり、誰もいないね』

「そりゃ…まだ海に来るには早いしな!」

『うん。まあこれを狙ってたんだけど』




そう言った名前は
砂浜をゆっくり歩く





海に来たいと思ったのは彼女の突然思いつきらしい

名前らしいといえば名前らしい、な。
なんて俺は苦笑した










誰もいない砂浜


広い海


果てしなく広がる水平線





海辺をゆっくり歩く彼女はなんだかとても小さく見える






『あ!』

「?」


名前は何かを見つけたようで
嬉しそうに手招きをした

俺は駆け寄る














「貝か?」

『そう!綺麗でしょ!』


名前が見つけたのは
小さな白い貝だった

笑顔でそれを見つめていた彼女は
急に寂しそうな顔をした



「どーした?」

『あのね


貝って、"忘れ貝"っていうんだって』

「?」

『この前古典の授業で先生が言ってたの、山本は寝てたし聞いてなかっただろうけど!』




今度は名前が苦笑して
また寂しそうな顔に戻った




『貝って、生まれた時二枚合わさってるでしょ、でもある時何かあって一枚になっちゃうじゃない?ほら、この貝みたいに』

「うん」


名前の手にあるのも一枚の貝だった



『ずっと一緒にいた一枚を失っても貝は忘れたみたいに平気でいるから、"忘れ貝"っていうんだって。』


















ずっと一緒にいた一枚を失っても




その言葉は
悲しく響いた。














「平気なのかな」

『へ?』

「だって、ずーっと一緒にいたんだぜ?失って平気な訳
『そう!』

「?」

『私も同じこと思ったの』







俺が思ったままのことを言うと

彼女も同じ考えだったらしく、また続けた

















『私、山本が居なくなったら死んじゃうもの』








悲しく微笑みながら
名前は言った



『貝は生まれた時から一緒でしょ?私達は貝より一緒の期間はずっと短いのに』

「貝って強いんだな!」

『?』

「俺も名前が居ないなんて考えらんねーし、


それとも生まれた時から一緒にいる貝より俺達の方が想いが強いとか?」

「!……ふっ、そーかもね」























実を言うと、悔しかった

俺達は貝に比べたらまだ出会ったばかり


貝と比べて悔しがるなんて
馬鹿だと思うけど









生まれた時から一緒ってのはもう無理だから

今から出来るのはこれから一緒に居るコト







『山本が居なくなったら私本当に
「俺は居なくなんねーから、死ぬなんて言うなよ?」

『…うん!』




















忘れ貝



貴方が隣に居なくても平気だなんて



ただの 強がり






















あなたの






トナリ。






ずーっとずっと

特等席














(次ページ→あとがき)


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