運命の人 | ナノ


隔離されたアクアクリスタル



ホールに戻って来ると、何だかくらーい雰囲気が漂っていて申し訳無さでいっぱいになった。
…感情に任せて発言するものじゃないね。



「名前……」

「怖がらせちゃってごめんね?」

「んーん、怖くなんてなかったよ」


そう言って笑ってくれる蘭は優しくて、叶わないなぁ…なんて思った。
私には無い物を、たくさん持っている蘭が羨ましくて…でも私は蘭にはなれないから。
心の中で苦笑して、そして席に着いた。



「ところで皆さん、今日はどういう理由で呼ばれたんですか?」


気を取り直した目暮警部が皆さんに聞く。
皆さん、旭さんの秘書の方からこのアクアクリスタルに呼ばれたらしい。
奈々さんはプレゼントまで貰ったみたいで、フランス製の高いマニキュアを皆に見せた。


「何やってんだ?奈々ちゃん」

「ワインのコルクにマニキュアで描いたの。可愛いでしょう?」

「何だそりゃ?タヌキか?」

「やーだ、先生ったら意地悪!ネコよ、ネコ!」



コルクに描かれた目つきの悪いネコ。
タヌキにも見えないし…失礼だけどネコにも見えませんでしたすみません。

するとピーターさんが何かに気付いて机の下から、紙を拾い上げて沢木さんに渡した。



「沢木さん、貴方にです。下に落ちてました」

「沢木公平様。遅れるかもしれないのでワインセラーのM−18番の棚からお好きなワインを取って来て、皆さんに出しておいてください。鍵はレジカウンターにある袋の中に入ってます。よろしく…旭勝義」


どうやら旭さんからの手紙みたい。
その話に皆がワインセラーを見たいと口を揃えて言い出して、沢木さんがじゃあ一緒に行きましょうと言う。
……大丈夫、だろうか。
これから…何かが、起こってしまうんじゃないかって不安を覚えながら私も皆の列に続いた。




鍵がかかっていたワインセラーを開けて中に入る。
中はワインでいっぱいで凄い…!
涼しくてホールとの温度の差に腕を摩った。


「涼しい…」

「いいえ、温か過ぎるくらいですよ。温度は十度から十四度くらいがワインを保存するのに理想的な条件なんですが…ここは十七度と高すぎますね」


沢木さんの言う通り温度計の目盛りは17度をさしていた。
ワインを飲むのは好きだったけど、そこら辺の詳しいことは調べてなかったから初めて知る。
だがしかし…これだけワインがあると飲みたくなるよね。
家に帰ったら飲みた……あー…私、今未成年だった。
棚にある物の中には希少なワインもたくさんあって壮観だ。
旭さんってワインが好きなんだなぁ。


「危ない!!」

「…え」


今の……コナン君の声!?
コナン君の身に何かがあったのかと急いで走り出そうとすると、毛利さんと警部を呼ぶ声が聞こえてくる。
その声を聞くだけだとコナン君が怪我をしていないだろう。

駆けつけるとボウガンが仕掛けられていて、側にはトランプのスペードの8。
沢木さんが狙われた…?
それじゃあ犯人は………あーもう…まったく分かんない。
私のは只の勘だし、100%沢木さんが犯人だと決まっている訳じゃない。
犯人が容疑者から離れる為に自分を狙ったり、怪我をしたり…というのは推理ドラマなどで良く見かける話だけど。
そうだとしたら……うぅ…気の張り詰めっぱなしに頭が痛くなって来た。

でも沢木さんが狙われたとしたら…9の旭さんは、もう…。
ひとまずこの建物から避難するべきだと言う毛利さんの言葉に目暮警部が頷いて、私達はまたホールに戻ることになった。



「あれ?閉まってるぞ。入口はここじゃなかったかね?」

「帰るんならコート取って来ていい?」


帰路に続く扉が閉まっている。
…どうして?



「キャアアアーーーーーーッ!!」

「!?」


コートを取りに行った奈々さんが叫び声を上げた。
奈々さんの目線の先、ガラス張りの海の中……旭さんがその体を魚と一緒に漂わせている。
旭さんの胸にトランプの9が付けられているのが見えた。
…犠牲者が、出てしまった。


「警部!このドア、電子ロックされていて開きません!」

「何だと!?…よし、応援を……駄目だっ、圏外だ!」


カウンターに置いてある電話を毛利さんが取るが、繋がらないらしい。
くそ!と毛利さんが舌打ちをして非常口を見に走って行った。




…隔離された。
この海の真ん中の、アクアクリスタルに。

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