真実は一つ
蘭が部屋に入ると同時に洋服タンスを思い切り閉めた。
「…名前?」
『うん?』
「コナン君は?」
『コナン君は今、トイレに行ってるよ。汗もかいてるだろうから何か服とか貸してもらえれば良いんだけど…下に行って一緒に聞いてもらっても良い?』
「良いけど…コナン君は良いの?」
『さすがに一緒にトイレに入るのはね…』
苦笑すればそうだね、と蘭も苦笑して頷いてくれた。
一緒に階下へ行ってくれるらしいので蘭には気付かれない様に胸を撫で下ろす。
背中を押して蘭をこの部屋から遠ざけながら室内を見ると、押し込めた洋服タンスから少しだけ顔を出して工藤君が私を見ていた。
『(後から来てね)』
そう口パクで言うとちゃんと工藤君に伝わったのか首を縦に振ってくれた。
良かった、これで鉢合わせすることも無く原作通りに物語が進む。
下の階へ行くと、平次が利光さんを犯人だと言っている状況だった。
そして、利光さんが上を見上げ自分が勲さんを殺したと言う瞬間、
「いや…そいつは違うな」
後ろから聞こえたのはさっきまで聞いていた工藤君の声で、ドアに手をかけて立っていた。
汗もかいて息も荒かったけど、工藤君はその後事件を解いた。
辻村さんが勲さんを殺した犯人だと言って。
やっぱり工藤君の推理は目を見張る物があると思うな、なんて思う。
「ゲホガホゴホッ!」
「大丈夫、新一?」
「ああ…ちょっと風邪気味なだけだ…」
ふぅ、と息をついて本棚に背中を預けた工藤君に蘭と平次が駆け寄った。
進んでいく物語に私の身の置き場所が分からなくなる。
…この後って、工藤君がまた縮んじゃってって所だよね。
だったらそれのフォローが出来る様にした方が良いのかな?
「本当は近くにいたんでしょ?じゃあ何で、何で名前に顔見せなかったのよ!?」
『「へっ?」』
な、何でそこで私が!?
よくよく見てみると蘭は涙ぐんでいるけれど、涙ぐんでいる理由が原作とは違う様な…?
「いや…それは今、関わってる難事件があって…」
「難事件なんか片付けて早く帰って来なさいよ!名前が一人であの本の山にいることがどれだけ酷か分かってるの!?」
「はぁっ!?オメー、オレの心配は無しかよ!」
「そりゃあ…幼馴染として心配はしてるよ!」
口論が始まってしまった。
うーん…仲が良いのか悪いのか。
まぁ、喧嘩するほど仲が良いと言うし、この二人の口論なんて日常かな。
でもそれを初めて見た平次はぽかんと口を開けている。
「…げほっ」
「…大丈夫?顔赤いし汗かいてるから風邪が治った訳じゃないんでしょ?お医者さん呼んで来るからちょっと待ってて!」
咳をしている新一を気遣ったのか蘭が置いて来てしまったお医者様を連れて来ようと書斎を出て行った。
「…さすがやな、工藤。名前の言った通り、お前の推理の方が一枚上やった」
「…え?」
「名前が言うとったんや、工藤は自分が知ってる中で一番の探偵やーってな」
「……名前、が?」
『え、あ…えっと』
えっ…何でしょうかこれ…何かすっごく恥ずかしい!
自分で言うのは良いんだけど、他人が言ってるのを目の前で聞くのはとても恥ずかしくて穴があったら入りたいです。
工藤君も少しだけ顔が赤いし…その顔の赤さは風邪だからだよね?
「まったく…今回は何から何までオレの負けや」
「バーロ…推理に勝った負けたも、上も下もねーよ。真実はいつも…たった一つしかねーんだからな…」
ドキリ。
名言を言って笑った工藤君はやっぱり格好良くて、ドキドキ、した。
いつか、このドキドキする理由を……認めてしまう時が来てしまうのだろうか。
そうしたら私は…、
prev / next