倒れる小さな体
流石は外交官の家、工藤邸と同じくらい、かな?
強引に連れられて来た辻村さんの立派なお屋敷へ入る。
中へ入ると続々と役者が登場してきた。
執事の小池さん、辻村さんの息子の貴善さん、その恋人の幸子さん、辻村さんの祖父の利光さん。
辻村さんの案内で勲さんの書斎へ行くと、肘をついて眠っていた。
書斎にはステレオからオペラがかかっている。
眠っている勲さんに辻村さんが近付き体を揺すっていた。
「ちょっとあなた!起きて下さいよ!!あな……」
ぐらり、勲さんの体が揺れて床に倒れた。
勲さんに平次とコナン君、毛利さんが駆け寄る。
すぐに脈をとった平次は勲さんが死んでしまったことを告げた。
辻村さんの声を聞き付けた息子さん達が書斎に入って来る所を毛利さんが止める。
「い、一体何が…」
「亡くなったんですよ…この家のご主人、辻村勲さんがね…」
「な、なんだって!?」
息子さん達の顔が驚愕に変わる中、コナン君と平次が勲さんの死体とその周りを調べ出す。
コナン君と平次がキョロキョロとしだして、机の下に何かがあったのか二人同時にそっちへ動いた。
『ちょっと待ってそのまま行ったらぶつか』
ゴッ!なんて鈍い音が聞こえた。
い、痛そう……!
ぶつかった反動で二人が尻もちを着く。
「いたあ〜…このガキうろちょろしよって!あんたがちゃんと世話したらんとあかんやないか!死体なんて子供に見せるもんやないで」
コナン君の首根っこを掴んで平次が蘭に渡す。
平次の台詞に多大なる疑問があります。
『……平次も子供でしょーが』
そりゃあ高校生探偵やってるんだから殺人現場に居合わせる回数は多いだろうし、慣れなきゃいけないのかもしれない。
でも平次だってまだ高校生で未成年だし、ね。
あんまり気持ちの良いものじゃあ…ないと思う。
毛利さんが呼んだ目暮警部が書斎に入って来て初動捜査を開始し出した。
パシャパシャと写真が撮られていくなか、平次が自分の推理を目暮警部に話す。
その姿は蘭が思う通り、きっと工藤君みたいなんだろうなって思った。
勲さんの髪の生え際にある小さい赤い点、死体の側に落ちていた凶器らしき針。
窒息死しているのに遺体には絞殺した痕も溺死させた様子も無い、とすると…残ったのは一瞬で殺せる様な猛毒で神経を麻痺させられて殺されたということ。
目暮警部達が平次の推理に目が点になっている。
毛利さんが平次のことを警部に教えると、大阪府警本部長の服部平蔵さんの息子さんだと分かり目を輝かせた。
「へっくしゅんっ!!」
『わ!?ビックリしたぁ。えーっと…はい、ティッシュ。』
「んあ……わり」
ズズーと鼻を啜ったコナン君にポケットティッシュを渡す。
…大丈夫って言ってるけどそんな様子は微塵も感じられない。
寒気もしているのか、身震いしたコナン君に自分の上着を貸した。
ありがとうと言うコナン君の声にいつもみたいな明るさは見えなくて、ぽんぽんと頭を撫でる。
本当はこんな所で推理させないで早く帰らせて休ませた方が良いんだろうけど。
今日はコナン君が白乾児によって工藤君に戻る大切な日だから。
「これは立派な不可能犯罪。密室殺人ちゅうことや!」
辻村さんが開けるまで密室だった書斎の合鍵が勲さんのズボンのポケットに入っていることが分かり、平次がそう言って毛利さんを凝視した。
……疑ってるかな、今まで多くの事件を解いてきたのは毛利さんじゃないって。
まぁ…毛利さんは時々、覚醒して起きたままでも事件を解決したりするけど大体はコナン君が解いてるもんなぁ。
「おい、名前」
『はぁいっ!?』
コナン君の隣にいた私を平次が引っ張って耳打ちをしてくる。
んーっと…風邪の所為もあるんだと思うんだけど、後ろのコナン君がすっっっっごく怖い!
何でそんな目で私を見て来るの私何かしましたか!?
「……ほんまに工藤が何処におるのか分からへんのか?」
『うん…分かんないよ。何で?』
「どう考えてもあのオッサンが今までの事件を自分で推理して解決してきた様には見えへん。だったら…やっぱり工藤が助言してるんや、絶対そうや!」
『こ、興奮してるね…』
「…ほんなら何で名前の前に姿見せへんのや?工藤の女なんやから名前には居場所教えたり出来るやろうに…」
『だからね、私は工藤君の女じゃないってば』
いつまでも勘違いしたままの推理を始める平次を置いて本棚の方を見に行く。
そこに置いてあった写真立てを見て、それを手に取った。
勲さんと辻村さんかな、何年くらい前のだろう?
「名前姉ちゃん、それ…見せて?」
『え?あ、はい』
コナン君に見える様に腰を曲げて写真を見せる。
じーっとその写真を見つめるコナン君が目を擦った。
……目、霞んできてるのかな。
毛利探偵事務所を出て来た時よりも数段、具合が悪くなっているのが見て取れる。
ハァハァと辛そうに息をしている間にも捜査は進んでいて、勲さんが持っていた鍵の異変について話していた。
段々と、平次が確信に近付いていっている。
だったらきっと、コナン君も…、
『え…?』
クラリと揺れたコナン君の体は床に思い切り倒れ込んだ。
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