運命の人 | ナノ


酔ってしまった可愛い子



ピンポーン
一応、チャイムを押してから声をかけた、んだけど…蘭が出て来るのすら待ちきれないのか平次はそのままズカズカと扉を開けて中に入って行った。
……良かった、家でそんなことされないで。


『蘭…?』

「名前!」

「工藤おるんやろ、ここに!出してもらおか」

「新一?知らないわよ!ちょっ…名前、この人誰!?」


えーっと……お手数かけます申し訳ない。
まさかこんなに強引に行くとは思ってなかった。
血の気の多い平次に穏便に済まして、っていうのを期待しても…無理、だね。


「工藤の家に行ってもおらんかった。やったら、当初の推理通りこの毛利探偵事務所に出入りしとるって考えるやろ!」

「だから知らないって言ってるでしょ?」

「嘘ゆうたらアカンで、ねーちゃん!あいつがここにおるのは分かってんのや!!さぁ出してもらおか?あいつを…工藤新一をはよ出さんか!!」

「へっ?」


此処に来て一番の声量を発揮して言った言葉と同時にコナン君が事務所の扉を開けて入って来た。
おまけにくしゅんとくしゃみもして。
思ったよりも顔色は悪いし、風邪の症状は酷そう。



『お帰り。風邪、大丈夫?』

「あれっ?何で名前姉ちゃんが此処に…」

『平次が毛利探偵事務所に工藤君が出入りしてるって疑ってて。こっちの地理は分かんないだろうから此処まで連れて来たの』

「………平次ぃ?」


何でそんなに米神ピクピクさせてるんだろうか。
可愛い顔が般若みたいな顔に早変わりしてて怖いんだけど。


『…で?蘭に電話した?』

「……まぁ一応したけどよ、別に心配してる様子なんて無かったぜ?言ってたことなんて名前のことくらいで…」

『私のこと?んー…君に心配かけない様に強がってるだけだよ』

「そんなんじゃねーと思うけど…それより!誰なんだよこの男」



コソコソと話していたコナン君の指が口論している蘭と平次を指す。
誰なんだよ、と言われても……君と同じ高校生探偵だよとしか答えられない。
そんなことを私とコナン君が話しているといきなり平次が窓際に走り出した。


「変やと思わへんか?久し振りに電話する相手で、暫く会うてへんのやったら尚更その相手が元気にしとるか気になるやろ。それを聞かん理由は…工藤はどっかであんたのことを見てるんや。たぶん、この近くでな」


蘭とコナン君が驚いて目を見開く。
さすがは西の高校生探偵、と言うべきか。
しかし…覗き魔にされちゃう工藤君は気の毒だなぁ。


「そーいやーまだゆうてへんかったな…オレの名前は服部平次!工藤と同じ高校生探偵や!!」


まだ言ってなかったと、帽子を一度取って言う平次を何処か人事の様に見つめながら進んでいく会話に身を置いた。
久し振りの工藤君と蘭の再会を邪魔するのだけはしたくない。
でも…正直に言うと私も工藤君に会いたい気持ちはあって、だからなのかな変な気持ち。
何でこんなに工藤君のことを恋しく思っちゃってるんだろう…家に一人だから寂しいのかな。

私が工藤君のことを考えている所為か、コナン君がくしゃみをした。
それを見て平次がスポーツバッグから薬と称した酒を取り出す。
……あれが、白乾児。
APTX4869の解毒効果を持っているお酒。
一体どんな味なんだろう…?の、飲んでみたい!



「れ?」


白乾児を一口飲んだコナン君がくらりと体を揺らした。
そんなにお酒弱いの!?
まぁ、体は小さくなってるし風邪気味だからアルコールの回りが早いのかもしれないけどそれにしたって早いでしょう!


「ヒック」

『とっと、大丈夫?』

「ちょっと何飲ませたのよ?」

「白乾児っちゅう中国酒や!」


ふらふらと揺れているコナン君の体を支える。
蘭が平次に怒っている後ろで依頼人がコンコンとドアを叩く音が聞こえて来た。
そういえばさっきからピンポーンって呼び鈴の音がしてたなぁ。
依頼人の話を毛利さん達が聞いている最中、私はコナン君の面倒を見る。



「へへっ、……なぁにこれ〜?」

『うん、可愛いけどやっぱりやばいと思うから水飲もっか』


水を飲まそうと思い蘭に断りを入れてからコップに注いだ水をコナン君に飲ませる。
適度に酔ったら可愛くなるんだな、工藤君は。
気持ち良い酔いは最初だけだったのか気持ち悪い、と言い始めたコナン君は渡した水を飲み干した。





気持ち悪いと言っているコナン君の背中を摩りながら、依頼主の辻村さんの話を聞く。
依頼内容は息子の恋人の素行調査。
詳しい話を聞く為に辻村さん宅へ行くことになり、平次の意見で親子連れに見えるようにと皆で行くらしい。
だったら私は帰ろうかな。



『それじゃあ私は帰るね』


手を振って毛利探偵事務所を出ようとした、ら、首元が絞まった。
ぐえ、なんて女の子らしくない蛙が潰れた様な声が出た。
そんな声を出す原因となった首を絞めている腕は浅黒くて、毛利さんでも蘭でもない。だとしたら残るはあと一人。


『へっ平次?苦し…!』

「何帰ろうとしてんねん。お前も行くんや!」

『え、いや別に私は、』

「工藤に会いたくないんか?それに名前が来るんやったら顔出さへんアイツも現れるかもしれへんやろ?」


うーんと、今、私の隣に居るんだけどね。
……でもそんなことは言えないから黙る。
それがいけなかったのか、無言の肯定と取られてしまったのか、ぐいぐいと強引に引っ張られた。



『ちょちょちょ!平次!?』

「よっしゃ、行くでー!!」


聞く耳持ってないよこの子!!
半ば引き摺られる様にして私は辻村さん宅へ行くことになってしまった。

prev / next

[ back to top ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -