運命の人 | ナノ


明日の笑顔に繋がる夜



『それで…突然どうしたの?』

「え?」


本当に出て来たハンバーグを食べていた箸が止まる。
名前の方を見ても視線は合わず、名前はただ黙々と食べ続けていた。
余り食欲が無いのか、食べてる量は極端に少ないけど。



『もしかして……心配させちゃった?』


名前の作っていた笑顔が小さく歪む。
そんな顔を見たい訳じゃねーけど…作り笑顔よりはマシだと思った。
…見てるこっちが悲しくなる様な、そんな顔。



「…無理して作るくらいなら笑わなくて良いと思うぜ。空元気もたまには必要だって言うけど今は必要ねーと思うし。悲しい時は泣いて、思う存分泣いてから、それから笑えば良いんじゃねーの」

『………』



今までちまちまと進めていた箸がオレの言葉で止まる。
ゆらりと揺れた瞳が濡れて見えた。
ガタン、と勢い良く椅子から立ち上がった名前が俯いている顔を上げてまた笑う。


『食欲無いからご馳走様するね。お風呂やって来るからコナン君は食べてて』


そう言ってまた戻った表情にオレの箸も止まってしまった。
…オレの見てない所で、泣きに行った、んだろうな。
何もしてやれない自分に腹がたって、唇を噛み締めた。






久し振りに自分のベッドで寝ることが出来た。
自分のベッドが何だか大きく感じたけど、それよりもオッチャンのあのうるせぇいびきが聞こえないことが嬉しい。
…ほんっとうるせーからなぁ…オッチャンのいびき。

名前のことを考えると眠りにつけない。
悶々とあいつのことを考え続けていると扉がノックされた。
この家にいてオレの部屋をノックする人物なんて限られている。



「……名前?」

『…入って良い?』

「あぁ」



どうしたんだ?
時計を見るとさっきおやすみと言ってからそんなに時間は経っていない。
かちゃりと控え目に開かれたドアから名前が顔を覗かせる。



『失礼します』

「どした?」

『一緒に寝て良いですか?』

「……………は?」


ビックリ、した。つか、ビックリしたじゃ済まない気がする。
ちょっと待てちょっと待て!!
了承もしてねーのに何でベッドに入って来てんだこいつはっ!?



「ちょっと待てよ!何やってんだ!!」

『一緒に寝ようと思って潜り込んでいます』

「んなの見れば分かるっつの!」


何でそんなことしてんだって聞いてんだよ!


『無言で夜這いに来ないだけ感謝して下さい』

「バーロー!夜這いなんて以ての外だ!!」

『大丈夫。中身は高校生でも小学生に欲情するほど変態じゃないから』

「(オレが大丈夫じゃねーんだよっ!)」

『おやすみなさーい』



オレのベッドへ入って来たこいつはそのまま掛け布団で自分の顔を隠した。
テコでも動きそうにない名前はそのまま眠りにつこうとしている。
くっそ……どうしろっつーんだよ。

……リビングで寝よ。
絶対寝れない上に、好きな奴が隣に居るのに平常心で一緒に寝れるのは馬鹿か変態くらいだろ。
起きてベッドを出ようとしたら服の裾をきゅっと摘ままれた。
顔を見られない為か布団で顔を隠しているけど、そこから伸びて来た手はしっかりとオレの裾を掴んでいる。
…何、だよ…その可愛い行動。
やば…でか過ぎる心音が名前に聞こえそう。





『……行かないで』


か細い声がオレの耳に届く。
弱々しいその声にたくさんの名前の感情が含まれている気がした。


「………」

『…ごめんね……辛く、なってきちゃって…一人で泣くの。昨日ずっと考えてたんだ…雅美さんのこと。運命を知っている私がいても…変えられないこともあるって、実感した。何も…出来なかった』


オレの手を掴んだ血に濡れた手。
フッと笑った雅美さんの笑顔。
…嗚咽を我慢して肩に顔を埋めて泣く名前の細い腕の感触が蘇った。



『無力なんだ、って……それに、』

「………?」


顔が見えないからどんな顔してんのかとか分からない。
でも……何となく声の色が、さっきまでと違う気がした。
それは何となく、だけど。



『…んーん、何でもない。急にごめんね、私のことは気にしないで眠りについて下さい』

「…オメーは無力じゃねーよ。少なくとも……」


オレは………オメーが居てくれて良かったと思ってる。。
こうやって名前を好きになって、守りてぇって思えた奴が出来た。
…自分勝手かもしれねーけど名前がトリップして来て、オメーと会えて良かったと思っちまってる。
元の世界に帰れる様にオレがサポートするって言ったけど。
いつか訪れるこいつとの別れの時に…オレは笑えんのかな。




「だから……あんま思い詰めんな。オメー、蘭より絶対思い詰めるタイプだと思うぜ」

『……そんなことないよ』

「その間なんだよ」

『……』

「…昨日、どうせ寝てねーんだろ?何処にも行かねーから寝ろよ」



掛け布団の上から名前の頭の上にぽん、と手を置いた。
直接触れられないことが少しだけもどかしい。


『…今日……工藤君が来てくれて良かった』

「…おー。オメーが来て欲しいって言うなら来てやるよ」

『ふふっ…すっごい上目線。……うん、ありがと。おやすみ、工藤君』

「おやすみ」




立ち直るのは容易い事じゃねーけど…少しずつで良い。
少しずつで良いから立ち直って、いつもの名前の笑顔が見れればそれで。

明日は名前の笑った顔が見れれば良いと、そんなことを思った。

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