APTX4869疑惑
何もかも自分が住んでいたあの小さな部屋と違うから違和感を感じてしまうけど、工藤君に誘われなきゃお風呂も入れなかったんだよね。
お風呂に入る為に上着を脱いで洗面所の鏡を見る。
『ぎにゃああぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』
「!?」
我ながら凄い声が出たと思う。バタバタと足音を響かせて大慌てでリビングにいるだろう工藤君の元へ向かう。
「どうしたんでっ………な、っ!?何で服着てねーんだよ!?」
『ブラ着てるよ!』
「ちが…何で上着を着てないかって聞いて……」
『工藤君に見られたって減るもんじゃありません!そんな事よりっ』
「そんな事よりって…俺より年上なら少しは気にしろよっ!!」
『私ヘンッ!!』
「あぁ変だな!思春期の高校生の前にブ…ブラジャー姿で来る女が変じゃなかったら世の女、全員変だっつの!」
顔を真っ赤にしている工藤君には申し訳ないけど、そんな事を気にしている余裕はない。だって私…私!?
『工藤君…私………小さくなってる!』
「………はぁ?元々、小さいだろ」
『違うよ失礼だな!私、元の世界ではもうちょっとだけ身長大きかったし…髪も短かった。なのに長いし何で!?』
今の今まで気付かなかった私も馬鹿だと思うけど…でもどうして?どうして縮んでるの?私、APTX4869飲んでないよね!?
「…は……どういう事だ?じゃあ、若返ってトリップして来たって事なのか?」
『…分かんない………でも…そうなのかも』
思案するように顎に手を置いたお決まりのポーズをしていて興奮したけど、今は自分の事だ。
小さくなってる…と言っても何歳くらい若返ったんだろう。中学生?高校生?5歳くらい若返ったのかな。どうしてそのまま此方の世界に来れなかったんだ。若返らなきゃいけない理由がある?
『……若返らなきゃいけない理由があったとしたら…』
「あぁ、それかトリップした影響で縮んだか……って、そんな事より早く上着着ろ!つか早く風呂場行け!」
『あ、あぁ…ごめん』
家中に響いたんじゃないかって声に驚きながら私は言われた通り風呂場へ向かった。
うーん……考える事が増えてしまった。
運悪く財布も携帯も持っていなかった為、自分の身分を証明できる様な物が何もない。というか…私はこの世界に来る前何をしていたっけ?
『いっ……』
思い出そうとしたらずきりと頭が痛んだ。
…思い出すのを拒否している?
痛む頭を押さえながら私はお風呂に入った。
お風呂から出て工藤君に会えばまた忘れられる様に思いながら。
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