笑顔の違和感
思い出すのは、この感情が生まれた時。
あいつが夜のリビングで声も出さずに泣いていたのを見て……一人にしたくねーって、思った。
初めて、異性にそういう感情を持った気がする。
これまでオレが一番関わって身近にいた蘭にだって、そんな感情を持ったことは無かったのに何で会って数時間しか経っていない名前にそんなことを思ったんだろう。
分かんねーけど…きっと、理屈じゃない。
恋愛ってのは、そういうもんなんじゃねーのかな…経験も無いし、初恋、になるだろうからクラスメートの男子が自慢げに言ってたことを思い出しただけだけど。
でも…多分、そうだと思う。
声に出して泣きゃいいのにそれをしないで細い腕でオレを抱き締めて来たあいつを…一人にしたくねーんだ。
雅美さんが亡くなってしまってから一夜が明けた。
あれから名前はオレの家に帰らずに探偵事務所に泊まって行った。
蘭もショックが大きいのか元気ねーけど…それよりも、
『泊めてもらっちゃってごめんね。それじゃあ私、帰るから』
「……新一、電話出ないの?」
『…うん、きっと事件で忙しいんだと思う。心配しなくても大丈夫だよ!いつまでもショック受けてたってしょうがないし…私より蘭だよ!』
「え?」
『蘭こそ色々と思い詰めちゃう所があるんだから……辛くなったら電話して?いつだって出れる様にしておくから』
「………うん」
何で、……そんなに笑ってんだよ。
違和感しか感じねぇ、名前がそんなに簡単に立ち直れるとも思ってない。
こいつは…自分は強いと思ってるくせに、人一倍弱くて脆い。
それを本人が自覚してないから性質が悪いんだ。
見てて痛くなる様な笑顔に顔が歪む。
探偵事務所を出て行こうとする名前を引き止める様に大きな声を出した。
『…コナン君?』
「蘭姉ちゃん!ボク今日、名前姉ちゃんの家に泊まりに行っても良い?」
「え?えっと…」
「名前姉ちゃんのご飯美味しいんだっ!だから…駄目?」
急な願いに蘭がしどろもどろとしている。
首を傾げて聞くと隣の名前が口元を押さえて頬を染めていた。
……何だその反応、可愛いとか思ってたらすげー嫌なんだけど。あ…思ってそうだ。
「家は構わないけど…名前は大丈夫?」
『大丈夫だよ。じゃあ…コナン君の好きなハンバーグにしよっか?それともオムライスが良い?』
「んー…ハンバーグ!」
『材料ないからスーパー寄って行こっか!それじゃあ蘭、コナン君一日預かります!』
「迷惑かけない様にね」
「うんー!」
名前と手を繋いで蘭に手を振りながら探偵事務所を出る。
この行為がいつまで経っても慣れねぇ…。
完璧に、子供扱いされてんだろうな。
実際、精神年齢は名前の方が年上だし。
スーパーへ行くまで繋いだままだったせいでオレの心臓は壊れそうだった。
prev / next