私の中で大きくなる君
コナン君が蘭に連れられて行って数時間後。
博士は言葉通り私の看病をしてくれた。
興奮したり、叫んだり、泣きそうになったりと忙しく変わった感情についていけなかったのかは分からないけど…風邪が悪化しました。
熱は39度と逆戻り。……なんてこったい。
あれからすぐ後、快斗から大丈夫か電話が来て大丈夫だよと言ったのに…どうして気付いたのか分からないけど悪化したろと言われて無言で肯定してしまった。
……何で分かるの?と聞いたらオメーのことなんざ声聞きゃ分かるっつの、なんて何処かで聞いた覚えのある様な気障な台詞を吐いて来たから恥ずかしくなって電話を切ってしまった。
だってそんなロマンチックなこと、生まれてこのかた言われたことないもん!
極めつけはそのお声です…無理、あんな素敵な声で言われたらイチコロだって。いや、イチコロされてないけど。
切って3秒後くらいに折り返しの電話がかかってきたから平常心を保ちながら出たら怒られたけど。
ごめんね…でもそんな格好良い台詞言われたら私、心臓もたない!
なんてことがあってから数時間が経ち、夜になった。
私の看病をしてくれていた博士もリビングのソファで雑魚寝させてしまっている。
それじゃ駄目だから余っているベッドを使ってと言ったけど慣れておるからと断られてしまった。
寝てしまった博士に風邪を引かない様に毛布をかける。
……今日会った人に、私の風邪が移らないことを祈ろう。
自分の部屋へ戻ってベッドの中に入る。
夢の世界へ旅立とうとするけれど…眠れない。
目が冴えている気はするのに体はだるくて何だか変な感じ。
携帯に手を伸ばせばメールが一件。
相手は快斗。…心配してくれてるのは良く分かったけど、その所為で快斗が体壊したりしないか心配。大丈夫かな。
それに……工藤君。
『…これから一人……か』
この広い工藤邸に一人。
いつもいた筈の工藤君はいない。
何が悲しいって……きっとこれが一番悲しいんだと思う。
何て我が儘な気持ちなんだろう。
…工藤君に、此処にいて欲しかった、なんて。
『わっ!?』
急にバイブレーションで揺れた携帯にビックリした。
画面には着信中の文字で、相手は…工藤君。
熱で頭が変になって幻覚でも見てるんじゃないかって思ったけれど確かに工藤新一、と書いてある。
何でこんなに、グットタイミングでかけてくるんだろうあの人は。
『…もしもし?』
〈もしもし、俺だけど…〉
『うん……どうしたの?』
〈……俺さ…蘭の家に居候させてもらうことになるから〉
『うん』
〈………ごめん〉
『…ん?何で謝るの?』
〈…オメーのこと、一人にさせちまう〉
少ない言葉に工藤君の優しさが溢れていて泣きそうになる。
見上げていた天井が歪んで見えて来た。
『……大丈夫だよ。今は16歳だけど…本当は21歳だよ?一人暮らしなんて慣れてるし』
〈…慣れてるってんなら……何で泣きそうなんだよ〉
……工藤君もか。私の声って分かりやすいのかしら。
今は風邪の所為で鼻声だから泣いててもそう簡単に分からないと思うのに。
『…泣いてない、もん』
〈バレバレだよ、バーロー。………一緒にいてやれなくて悪い〉
『……んーん、声聞けて良かった。いつもの工藤君の声じゃないから変な感じするけど』
〈…あー〉
今まで聞いてた勝平さんボイスじゃなく、みなみさんボイスになったからなのかちょっと違和感。でも良い声には変わりないね!
それから少しの間、工藤君のお説教タイムが始まりました。
高熱なのに何無理して起きて来てんだよみたいなそんな感じのことを延々とグチグチと。
……弟のくせに生意気だぞ!でも正論だから反論出来ない…くっ!
〈…そろそろ切らねーと、あんまり話し過ぎておっちゃんが起きるとヤベーし〉
『うん、バレない様に気をつけてね』
〈わーってるよ〉
『それじゃあ…』
〈あのさ…………名前は、この世界の人間じゃないかもしれない〉
『……』
〈でも、俺はこの世界に馴染んでると思うぜ。オメーが知ってる物語通りに進んでいないとしても気にすることねーんじゃねーか?〉
『…でも、』
〈何かあったら俺がどうにかするから、心配すんな!〉
たったそれだけなのに、声は違っても工藤君の優しさは変わらなくて涙が零れた。
泣かないって決めたのに涙は溢れてしまって、止まらない。
〈…大丈夫、か?〉
『…うん、大丈夫。ほら、早く寝なきゃ!それじゃあ、おやすみ』
〈…ん、おやすみ〉
引き攣りそうになる喉をごまかして工藤君との電話を切った。
これはもう…絶対明日酷いな。
でも心が軽くなった気がする。
また、工藤君に助けられてしまった。
日に日に、工藤君の存在が私の心の中で大きくなっていっている。
涙が止まらない理由も、一人になって寂しいと思う理由も、全部全部…工藤君ばかりだと分かった。
この世界で私が一人じゃないと思えるのはきっと、工藤君がいるからなんだ。
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