お金持ち坊ちゃんの食生活
『工藤君、工藤君』
「はい?」
前の世界では蘭が呼んでいた様に新一と呼び捨てにしていたけど、それは出来ないと名字で呼んでいる…でも今はそんな事どうでもよくって。
差し出されたカップラーメンを手に工藤君を呼ぶ。
『これはなーに?』
「カップラーメンですけど…あ、違う味が良かったですか?」
さっきコッソリと工藤君が棚から出していたカップラーメンが見えていたけど…量が半端無かった。…工藤君ってもしかして家事出来ない?そういえば漫画で工藤君が家事してる所なんて見た事無かったな。
『いや、そうじゃなくって。…君、いつもカップラーメンとかじゃないよね?』
「いつもじゃないですよ。時々、スーパーの総菜だったり出前頼んだり」
そうか、この子お坊ちゃんだもんな………この子の行く末が心配になってきた。あ、でも蘭がいるからそこの所は大丈夫か。
『……何か食材ある?』
「それだったら蘭が使わなかった食材がまだ冷蔵庫の中にありますけど…」
工藤君から了承を得て冷蔵庫を開けると確かに少しずつだけど使えそうな食材があった。これなら2、3品作れそう。余り豪華な物は作れないけどインスタント食品よりはマシな料理になるでしょ。
『有り合わせの物だからたいした料理は作れないけど…今から作るから少しだけ待ってて?』
「え……名字さんが作るんですか?」
『一人暮らししてたんだしそれくらいは任せて下さいな』
無駄に大きいキッチンへ行って、色々と考えながら作れる料理を頭の中の引き出しから出した。
出来あがった料理をテーブルに並べて少し質素な夕御飯の完成。それでも工藤君は目を真ん丸にしてその料理を凝視していた。
『毒なんて入ってないから安心して』
「いや、別にそんなんじゃなくて……本当に料理出来るんだって思って」
『……何、まだ私が君より年下だって疑ってるんですか』
「あ、あはは…」
乾いた笑いを聞いてその口にご飯詰め込んで喋れない様にしてやろうかと思ったけれど、今日泊まらせてもらう身の私にはそんな事出来ないと思い直した。私はもう成人過ぎているし、高校生の男の子の言葉に食ってかかるほど子供じゃない、と思いたい。
拗ねたように工藤君から視線を外してご飯を咀嚼した。
「ん……美味い…」
『そう?良かった。たまには自分でも作らなきゃ駄目だよ?』
「…作り方分かんねーし」
パクパクとご飯を食べている彼は何だか拗ねている様に見える。
そういえば高校一年生って言ってたな。原作より過去に来ちゃったみたいだけど、だからなのか工藤君が少しだけ幼く見えて可愛いな、なんて。
この子が高校二年生になったら日本警察の救世主って言われるようになるのか…凄い子と食事をしてるなぁ私って。
『蘭と結婚するって言ったって任せっきりじゃ夫として格好悪いよ』
「…………は?何言ってんですか」
何でそんな何言ってんだコイツ、見たいな顔してるんですか。イケメンが台無しよ。いや、でもきっと工藤君はどんな表情でも格好良く見えてしまうと思うけれど。
『え?だって結婚するでしょ君と蘭』
「俺、一度も蘭の事そういう風に見た事ないですよ」
『はい?またまたー、恥ずかしいのは分かるけど君の気持ちはバレバレだよ』
「いや、だから違ぇって。名字さんの言う俺達の本の中で俺と蘭は結婚してるんですか?」
『まだ結婚してないけど…二人ラブラブだったよ?そりゃあもう、国民的なカップルで私も羨ましかったもん』
「俺と蘭が?絶対に有り得ねぇ!」
……高校生の時はもう既に工藤君って蘭の事好きだったよね?高校生よりももっと小さい頃から好きだったと思うし…何で?私がこの世界に来たから…とかじゃないよね?
原作とは少し違う世界?キャラクターはそのままで気持ちや考えている事が違う?
「……いっ!おい!」
『え…』
一人の世界に入っていたからなのか工藤君が私の顔の前で手を振っていたのに今頃気付く。
「大丈夫…か?風呂沸かすから入って下さい。服は母さんの、…はブカブカか。俺の服貸すからそれで我慢してもらえますか?」
『あ、うん……ありがとう。食器洗うからお風呂お願いします』
まだどこかボーっとしたまま私は食べ終わった自分と工藤君の食器をシンクの中に入れて洗い出す。嬉しい事に全て食べてくれたらしい。思春期真っ盛りだし成長期だし何でも食べるんだろうな。
お風呂の方へ行ったのか工藤君が部屋を出て行く背中を私は見つめた。
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