夢で見た男の子
お馬鹿で変態な子を家に帰してもう一度ベッドに倒れ込んだ。
快斗が帰ってから熱を測ってみたら38.4℃の数字…うん、下がったね。
元の世界じゃ39℃出ても会社に出勤してたりしたし、まだまだ本調子じゃないけどこれくらいなら大丈夫か。
それでもやっぱり高熱に変わりはないらしく頭は痛いし視界は揺れてるし、手を握っても力が入っていない。
………駄目じゃない私。
もう少し回復しなきゃ駄目だと思って…眠りにつこうとしたら隣から爆発音。
博士が実験失敗した?大丈夫だろうか…見に行った方が良いかな……ベッドから起き上がって部屋を出ると同時に玄関の扉が開いた音がした。
…優作さんの部屋だったよね、確か。
優作さんの部屋、というよりは工藤邸の図書館に向かえば中から博士の声と…元の世界では工藤君よりも聞き慣れているんじゃないかっていう声が聞こえる。
出て行っても、良いよね?
「ああ…それをネタにゆすってる奴らを見ちまったんだよ…」
「それで、君の口を塞ぐ為に毒薬を…」
『博士?どうしたの?』
「!?名前…!?や、べ…」
思わず出たのか私の名前を思いっきり言って、ヤバイ!という顔をした工藤君を凝視する。
…………どうしよう、抱き締めたい!
可愛いよ、コナン君!可愛過ぎるよ、コナン君!
ううぅ…駄目かなぁ?
駄目だ!すみませんっ失礼します!!
心の中で一人謝って私から目を逸らしている小さくなった工藤君を抱き締めた。
「へぇっ!?ちょっ……!」
『可愛いっ!本当に可愛過ぎるー!ぎゅーっ』
ぎゅうっと腕で強く抱き締めれば工藤君がバタバタと暴れている。
それを逃がさない様に力を込めた。
「む、ねが…」
『…ムッツリだよね、工藤君って』
「…え」
バタバタと逃げようとする動きが止まる。
そりゃあ、そうだよね。自分はまだ小さくなったなんてこと言ってないのに知っているんだから。
「…何で、」
『忘れたの?私は君が主人公の物語を見て知ってる。……最近、記憶が曖昧になってきたけど印象に残ってる所は覚えてるよ』
「…知ってたってことか、俺がこうなっちまうこと!」
凄い剣幕で工藤君が私に叫ぶ。
……工藤君が怒る理由も分かる。でも、所詮私は此処の住人じゃない。私の世界は、此処じゃない。
『………知ってたよ』
「じゃあ、何で教えなかったんだよ!?」
『私はなるべく関与しちゃいけない!私はこの世界の人間じゃないんだから!』
「……」
…こんなに関わっていてこんなこと言っても今更かもしれないけれど。
原作が始まったっていうのが分かって、余計に自分がどうして此処にいるのか分からなくなった。
さっき、夢の中で見た様に工藤君は小学一年生の姿になってしまっている。
……余りに居心地が良過ぎて忘れてた、私がこの世界の人間じゃないってこと。
蘭と園子と一緒に笑い合う日々も、有希子さんと優作さんが私のことを娘みたいに思ってくれることも、そして……日常の一つとしてかけがえのない物になってしまった工藤君との生活も。
離れ難くなった、この世界から。
何時かは帰る日が来る、筈なのに。
「………悪ぃ。今…混乱してて…オメーのこと考えれてなかった」
『別に良いよ。それが当たり前の反応だから』
何でこんなに私、泣きそうなんだろう。
初めて、工藤君に、怒鳴っちゃった。
…あぁ…年上として取り乱すことはしたくなかったのに。
『…一つ助言するけど、小さくなったこと私と博士以外に言っちゃ駄目だよ』
「え?何で?」
「当たり前じゃ!君が工藤新一だと分かったらまた奴らに命を狙われるじゃろう!!それに君の周りの人間にも危害が及ぶ!!」
自分の状況が分からないくらい頭が混乱しているのか工藤君はきょとんとしていた。
そんな工藤君の両肩に手を置いて言い聞かせる博士を見ながら頭を押さえる。
……頭痛い、色々と考えちゃったからなぁ。
蘭にも絶対に教えるなと言っている博士の声が一瞬遠くなった。
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