運命の人 | ナノ


秘密を教えた一人



夢の中は真っ暗闇で何も見えない。
そんな暗闇の中で私はただ一人、体を縮ませて座り込んでいる。
黒から私は逃げられない、それが分かっていたから私は身動き一つせずにその場所に留まっていた。
カツン、カツンと遠くから足音が聞こえて来る。
誰、だろう…足音の間隔からして男の人だろうか。
その人が名前と優しい声で私の名前を呼んだ、瞬間に周りの暗闇が一気に晴れる。




「名前」

『工藤君!』



ふわりと笑った工藤君に安心して私は近付いて行ったけれど、目が眩む様な光に邪魔されて足を止めてしまった。
次に目を開けた時に目の前にいたのは、






「それじゃあ、ワシは少し家に戻ろうかの。任せても良いか?」

「えぇ、心配しないでゆっくりして来て下さい。きちんと面倒を看ておくので」


……快斗と博士の声?二人共、いつの間に来たんだろうか…。
部屋の扉が閉まる音がして会話の内容通り、博士は家に戻ったらしい。



『……かいと…』

「おっ、起きた!大丈夫かー?そうとう熱あるみてーだな」

『ん…朝測った時は…39.2℃だったかな』

「はぁっ!?高熱じゃねーか、病院行かなくて良いのかよ」

『良い…私、風邪は自然治癒でって思ってるから…』

「それにしたってよぉ……ま、俺の言うことなんて聞かねーんだろうけど」

『……だんだん分かって来たじゃない…』

「まーな」



なーんでこんなに意思疎通が出来るんだろうか。
まぁ、変に色々と考えたりしなくて良いと思うけど。



「買って来たぜ、スポドリ。汗かいてんだから水分補給は小まめにしろよ?」


ペットボトルのスポドリにストローを差して飲みやすい様にしてくれた快斗に感心する。
…慣れてるのかな、看病とかすることに。
快斗の支えで上半身を起こして買って来てくれたスポドリを飲んだ。カラカラだった喉が潤って少し回復したんじゃないかって気がする。



「家族は仕事行ってんのか?あの阿笠…博士?は名前の祖父ちゃんじゃねーんだろ?」


がさごそとスーパーの袋を漁っている快斗にそんなことを聞かれてどう言おうか迷う。
トリップしてきたことなんて、本当は言わない方が良いんだと思うけれど…快斗には見抜かれそうだな。


『…私の家族事故死してて…お母さんと仲の良かった工藤さんの家に引き取ってもらって今、居候してるの』

「え…」



袋を漁っていた快斗の手が止まって私の目を見つめる。
真意を探ろうとしている目が工藤君の目と似ている気がして小さく笑ってしまった。



「…それ、本当のことなのか?オメーの目…まだ他にあるみたいな」

『………ふ……アハハッ!…こほっ』

「おいおい、急に笑うなよ」


さすが怪盗キッド様。と思ったら笑えて来て声に出したら咳き込んでしまった。
私の背中をさする快斗に笑いかける。



『さすが……快斗だね。そう、今のは本当のことだけどそれだけじゃない』

「……教えて、くれるんだよな?」

『…今は調子悪いから詳しいことはまた今度話すよ。私、トリップしてきたの』


「…へっ?」




うん、そんな顔になるよね。
掻い摘んで話したら信じられないといった顔をしたけれど真面目な顔になった。



「何でそんなに重要なこと、早く教えてくれなかったんだよ?」

『そんな簡単に言うものじゃないと思ってたから……もし快斗にも誰にも言えない様な秘密があったとしたら…その秘密を一人で抱え込むにはきつくなって来たら、頼ってね』

「……何だそれ?」

『良いの、こっちの話』



快斗が、怪盗キッドになると…色々と抱え込むことも増えて来るかもしれないし、そんな時に友達として力になれたらって思うから。
喋ってたら少し落ち着いたみたい。
体の熱はまだまだ下がっていなくて熱いけど、朝よりは良くなったんだろう。



「じゃあ…今はその家族と過ごしてるのか?」

『ご両親は海外に行ってて、その息子さんの面倒見つつって感じだけど』

「え、マジかよ。その息子は今、友達の家に遊びに行ってんの?」

『いや、私の友達とデートしに行ってる』

「……一つお聞きしますが、その息子って何歳?」

『私と同い年』

「はあぁっ!?」


快斗の声が耳にキーンと来て鼓膜が破れるかと思った。急に何よ!?
頭にも響くから止めて…!治りかけていた頭痛が悪くなりそう…。



「おまっ…それ大丈夫なのかよ!?襲われたりとかしてねーか!?」

『………はぁ?』

「年頃の男が名前と一つ屋根の下…両親は海外に行ってていねーんだろ?何があってもおかしくない、何してもバレない……っつーことはだ、毎夜名前ちゃんとアハーンウフーン的なことヤッてるかもしれないってことだろ!?」


思わず米神を押さえて大きな溜め息をついてしまった。
…何を言っているんだ、この馬鹿な子は。
年頃の男の子なんだからそういう話題に興味を持つとは思うけど…工藤君はその手の話題に疎かったり、話をしてきたりしないから考えていなかった。
同じ顔と同じ声でこんなこと言われるのは……何だか、なぁ。



『…私とその人はそんな関係じゃないし…男の子が皆、快斗と同じ変態じゃないから大丈夫よ』

「俺はオメーの心配してんだよ!」

『ありがと。でも今日、分かったことは快斗が簡単にエッチなことに結び付けようとする変態だってことだけね』

「男は皆、変態だ!女の子に興味ねーのは男じゃないかホモだけだっつの!」

『……うん、胸を張って言う様なことじゃないってのは分かるわ』



快斗にお見舞いに来てもらったのは嬉しかったけど…こんなに風邪じゃない頭痛を引き起こされるとは思ってなかった。
頭がガンガンする……まだ横でギャーギャー言ってる快斗の声を聞かない様に体をベッドに沈める。
…何か、疲れちゃった。

もう一度眠りにつこうとしたら、携帯の着信音が鳴る。
今日は電話が多い日だなぁ。




『もしもし?』

〈名前!新一、帰ってる?〉

『え?工藤君?帰ってないけど…一緒じゃないの?』

〈帰るまでは一緒だったんだけど…先に帰ってって、すぐ追い付くからって言われたんだけど…〉

『………帰ってないよ』

〈…そっか、私、今からそっちに行くよ。名前も心配だし〉

『うん、分かった』



…蘭からこんな電話が来たってことは……なっちゃったんだね、工藤君は。
体は子供、頭脳は大人な小学生に。
快斗を帰らせなきゃだな、こんなに早くコナンに会う予定は無かっただろうし。



『今日はありがとね。快斗が来てくれたお陰でちょっと良くなった気がする』

「え、もう帰れって!?夜はこれからだろ!」

『……君は病人相手に何をしようとしてるの?』

「それ言っていい『帰って下さい』





呆れながらもお礼を言って、何故かまだ此処にいたいと駄々をこねる快斗に帰ってもらった。

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