横暴な怪盗紳士様
頭ガンガン、咳ゴホゴホ、寒気ブルブル。さて…この症状は何でしょうか?
正解は、風邪で御座います。
暢気に脳内クイズを出さなくても一目瞭然なくらい私は風邪を引いてます。
……そういえば、この世界に来てから風邪とか病気にかかった事無かったな。
「調子はどうだ?」
『……不法侵入だよ…』
「ちゃんとノックしたっつの。ほら、体温計」
彼が入ってきた事に全く気付かないくらい悪いのか。
工藤君から体温計を渡されてゆらゆらと力の入らない手で脇に挟む。
計らなくても高熱なのは目に見えてるけどな、なんて言って額に置かれた工藤君の手が冷たくて気持ちいい。
目を瞑って暫く待っていたら体温計の音が鳴った。
脇から取って見ると…驚愕の数字。
『39.2℃…』
「おいおい…病院行くか?」
『…いー………それより…もうそろそろ家出なきゃ…間に合わないでしょ?……蘭に謝っておいて…』
「は?死にそうなオメー置いて行ける訳、」
『……君が行かないなら…起きて私も着いて行くよ』
蚊が鳴く様な声になってしまったけどしっかり脅す。こう言えば多分、工藤君は行かざるを得ないと思う。君は優しいから。
「……ズリーよな、名前って」
『…ありがと』
「俺がいない間、博士にオメーのこと看ててもらう様に頼んでおくから。…なるべく早く帰って来る」
『…心配しないで…楽しんでおいで………行ってらっしゃい』
「じゃあ…行ってくるな」
後ろ髪を引かれる様に何時までも私のことを見ながら部屋を出て行った工藤君を見送って私は目を閉じた。
体内に溜まっている熱がこもって脳がやられそう。
苦しい…体が、熱い…。
熱で働かない私の耳に枕元に置いていた携帯の着信音が聞こえる。
誰だろう…心配して蘭が電話かけてきたのかな?
『………はい』
〈おいおい、鼻声じゃねーか〉
『だれ…くどーくん…?』
確かに電話口から聞こえる声は工藤君、のような、気がする。
あれ、でも何か…違う気も…。
〈…俺、くどーじゃねーんだけど。黒羽快斗〉
『あ、れ…かいと?どしたの…』
言われると、快斗だと分かる。
風邪じゃない時は工藤君と快斗の声の違いは分かったのに今は分からなかった。…そうとうヤバイのね。
〈何回もメールしたんだけど返信ねーから…風邪でも引いたのか?〉
『……ん…ちょっとね』
〈見舞い行こうか?〉
『いらない…かいとに…かぜうつしたくないもん』
あぁ…喋りづらい。声出ないし…。
見舞いって居候させてもらってる家に友達って呼びにくいよね。
蘭とか園子は良いとして、快斗はさすがに無理。
何より怪盗キッド様に、ライバルになる男の自宅を晒すことは無いだろう。
〈そう言われると行きたくなるんだよね〉
『……ばかいわないで』
〈別に俺はオメーの風邪なら移っても良いぜ。今、家に一人?住所教えてくれ、すぐ行くからよ。何か食いたいもんとかあるか?買ってくけど〉
一息で言い切った快斗にまた頭が痛くなって来た。
言い出すと…きっと聞かないよね、この子は。
工藤君と一緒で頑固そうだし。
『…だから…むりだって』
「喉をスッと通るやつのが良いよな?冷たいものとか…あ、ゼリーとか!あとスポドリも買ってってやるよ」
『…………おーい』
……駄目だ、聞いてやしない。
あ…や、ば。調子が悪すぎてもう説得するのも面倒になってきた。
『…米花町…2丁目21番地…』
「おっけ、待ってろよ」
プツンと切れた携帯を持ったまま、手をボスッと下ろす。
ハァハァと自分の息遣いしか聞こえない室内に一人というのが嫌。
……快斗、本当に来るんだろうな。
悩みからなのか頭の痛さが増した為、朦朧とする意識で目を閉じたら…あっという間に深い世界に堕ちていった。
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