白い彼
空を見上げると暗い灰色で雪雲が覆っていた。……これは降るなぁ。
もう少し厚着して来た方が良かったかな。
そんな事を思いながら歩いていると米花公園に着くのはあっという間で、工藤君はいないかとキョロキョロしたが呼びだした張本人は何処にも姿がなかった。
目暮警部にまた頼み事されちゃったんだろうな。犯人の事情聴取に工藤君も付き合ってくれんか、とか何とか言われて。
公園内には犬の散歩に来ている女の人と家族連れが二組くらい。
多分、すぐには来ないだろうしベンチに座って待ってよう。
……うーん、寒い。
いつ来れるんだろう。私は寒さで凍え死んでしまいそうよ。
はぁ、と自分の息で一瞬だけ手を温める。
外気の温度にやられて手が凍ってるんじゃないかってくらいに冷たい、気がする。最早、感覚すら無いや。
手袋とマフラーくらいしてこれば良かったなと後悔。
でもマフラーを引っかけちゃって解れてたからいっか、とか思ったんだよなぁ…解れてても良いから着けて来るべきだった。
「ねぇ」
『工藤君!遅、いよ…』
目の前に人が立っているのに気付くのと同時に声をかけられた。
待ち合わせをしている彼の声が聞こえた気がして顔を上げた所までは良かった。
…問題はその目の前に立っている人が工藤君じゃなく、………あの黒羽快斗だった事。
『………』
ぱくぱくと魚の様に口を開閉している私は彼の目にマヌケに映ってるだろう。
でも、でもこうなっちゃうのは当たり前だよ!何で私の目の前に怪盗キッドが…!
会うとしてもまだまだ先だと思ってたし、まさか黒羽快斗として会えるとは思っていなかった。
「だいじょぶか?」
『うぇ?な、何が?』
「中学生だろ?一人でダチでも待ってんのか?」
ピキ。私の中の何かが弾けました。
何よ、君達の青い瞳には私の顔は中学生にしか見えないって訳?そんなに童顔ですか私は?
『…私、高校一年生よ』
「えっ嘘!?」
…むっかつく!その顔!
そんな信じられないものでも見ている様な目やめて!
完璧に拗ねた私に黒羽快斗が乾いた笑いを起こす。
「悪かったって!ほれ、ここ見ててみ?1,2,3!!」
『きゃあっ!?』
ぼん!という音がして黒羽快斗の右手から出て来たのは真っ赤な一輪の薔薇。…いっつも常備してるのね、薔薇。
でもやっぱり間近で見るマジックは凄い。しかもいつ仕込んだのかも、そんな素振りも見れなかったのに。
『凄いね!どうやったの?』
「マジシャンにネタを聞くのはご法度だぜ?」
あっはは、ウィンクされちったよ。しかも格好良い。
やっぱり工藤君とは髪型もそうだけど雰囲気も違うのかな。何より軟派な所が違う。
何故かその後、黒羽快斗と仲良くなって名前、快斗なんて呼ぶ仲になった。工藤君を待つ間、暇だったから快斗とお喋り。
何でも仕事…いや、友達と遊びに米花町の方まで来てたらしく通りがかった米花公園にいた中学生に見える私が気になって声をかけたのだとか。
仕事……確実にキッドの仕事だな。
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