運命の人 | ナノ


信じてもらう為の言葉



依頼、と言った途端に探偵の顔になった新一君に招かれた工藤邸のふかふかソファで縮こまっている私は居場所が無い。まさか家に招いてくれるとは思っていなかった。
彼の淹れてくれたコーヒーを口に含む。……ぐあっ!無糖!?ブラックとか一端の高校生が飲むんじゃないよ格好良いな!けれど淹れてくれた新一君に悪いのでフレッシュとシュガーが欲しいなんて図々しい事は言えない。




「それで…依頼とは?」

『……どこから説明すればいいのか分からないんですけど…取り敢えず自己紹介だけ。名前は名字名前、21歳』

「え」



え、って何だえって。…そりゃあ?認めたくないけど私は身長が低いし顔は童顔だし実年齢に見られる事の方が少なかった。だけど高校生の子にそんな顔されると流石に傷付きます。



『………いいよ、どうせ私は童顔だし身長低いもん』

「わ、悪かったって。でも…本当に俺より年上か?どう見たって中学生か…良くて高校一年…」

『君は私に喧嘩を売ってるのか!?』

「売ってねぇよ!」


涙出そう…トリップした事実よりもトリップした先でも同じ会話をしなきゃいけない現実に。どうせなら身長が伸びてトリップしたかったな。



「…それで、俺に依頼って何ですか?」


一応、年上相手だからなのか敬語にしてくれた新一君の優しさを体に受けながら私は口を開いた。コーヒーを用意してもらっている間に考えた依頼内容。



『………私の事を調べて欲しいんです』

「…は?」


思った通りの反応が返って来てクスリと笑ってしまう。そりゃあそうか。素面の人間に自分の事を調べて欲しい、なんて言われる事は早々無いだろうから。





『……君は、トリップを信じますか?私は別世界から来たと言ったら…信じてくれる?』

「…何言って、」



普通の人間ならまず信じない。君はどうなんだろう?会って間もない女のこんな戯言に耳を傾けてくれる?





『簡単に信じるなんて出来ないと思います。私だって君の立場だったら信じれない。けれど実際に私の身に起こっている事だから。君に信じてもらえる様に私が知っている事を全部話すから…聞いて下さい』

「……」



ゆっくりと首を縦に振った新一君にほっとしてから私はぽつぽつと話し出した。

今、自分が置かれている状況。
自分の世界でのこの世界の事。
物語を捻じ曲げてしまわない様に言葉を選んで。
新一君がコナンになっていないという事は…時間的にまだジン達にも会っていないという事だろう。いや、もしかしたらもう黒ずくめの男達と決着がついて元の高校生に戻っているという考えも無きにしも非ずだけど。
















全部話し終えたら口の中がカラカラだった。もう冷めきってしまったコーヒーを飲んでゆっくりと新一君と目を合わせる。





『これが私の知っている全てです。君達の未来に関わって来ると思うからある程度言えない事もあるけど…そこは察して。でも今私が話した事に嘘偽りは一つも無いから』


未来の事を話さない様に十分注意しながら、信じてもらえるだろう言葉を選び抜いて話した。それで信じてもらえるかは…分からないけど。





「……すぐに信じる事は出来ません。普通なら有り得ない出来事だ」

『…そうですよね』



私自身だってまだ信じられていない部分がある。けれど目の前にいるのは確かに工藤新一に間違いはなくて、痛みも匂いも味だって分かる。こんな鮮明で現実的な夢が夢じゃないなら何だというんだろうか。




「けど……あなたが嘘をついてるようには見えません」

『…え?』

「だから取り敢えず、知り合いの警部に頼んであなたの事を調べてもらう様に頼んでみますよ。住所も聞くとこの東京には無いし……調べる事で信じるか信じないかを決めようと思います」

『ありがとうございます!』



最初に出会ったのが新一君で本当に良かったと心底そう思える。自分の事を調べてもらって…その後だよね。
住所が無かった…それはもしかしたら、私の戸籍も無いかもしれないと言う事で。その場合は……うん、公園でホームレスしかないよね。
いい夢は見せて貰ったから、あの工藤新一と現実に話せたってだけで最高の冥土の土産になるだろう。





『それじゃあ…またお伺いさせていただきます。本当にありがとうございました』

「へ、…ちょ!行く当てあるんですか?」

『え?其処ら辺を歩いて公園でも見付けてベンチで寝ようかと。あ、どれくらいで分かりますか?それに合わせてまた訪問させてもらおうと』

「オメー馬鹿か!今日は俺ん家泊まってけ!公園でホームレス紛いの事されて事件にでも巻き込まれたら寝覚めがわりーんだよ!」




イケメン補正でもかかっているのでしょうか、腕を掴まれただけで心臓が跳ね上がった。今日だけは…新一君の言葉に甘えようかな。今、掴まれている手を払い除けるのは何だか惜しい気がして私はこくりと小さく頷いて宜しくお願いしますと言った。

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