運命の人 | ナノ


強くなる決意



仲良く並んでいる有希子さんと優作さんを家の前で見送る。
私の隣には早く行けとでも言う様に目を細めている工藤君。
…また暫く会えなくなるんだからもう少し名残惜しんでも良いんじゃ?



『本当に良いんですか?』

「此処で良いよ。明日も学校があるんだろう?」



本当は空港まで見送りますと言ったんだけど笑顔で断られてしまった。
なので失礼だけど家の前での見送り。



「寂しくなったら電話ちょうだい?名前ちゃんの為なら深夜でも出るから」

『フフッ…はい!』

「それじゃあ行くわね!」



ちゅっと小さなリップ音をたてて有希子さんに右頬にキスをされる。
……此処って日本国ですわよね?一瞬にして外国にいる気分になったのは何の躊躇いも無く有希子さんがやったからだな、きっと。



「今度はLAの家に招待するよ」

『…はいっ!楽しみにしてます!』



優作さんの大きな男の人の手が私の頭を撫でる。
優しい温もりに安堵する心。
…また暫く会えなくなるのは寂しいな。
笑った優作さんの笑顔に応えながらそんな事を思った。







見えなくなるまで手を振り続けてくれた有希子さんに私も同じ様に手を振って別れた10分前。
リビングの椅子に座っている工藤君にコーヒーを出して私も向かい側の椅子に座る。
最近では工藤君にコーヒーが欲しいと言われなくても出せる様になった。……メイドさんが板に付いて来ている気がして嬉しい様な悲しい様な。

工藤夫妻がいなくなった事で何時もの生活が戻った。
豪邸に工藤君と私の二人だけの空間はやっぱり広過ぎて、時々しんとした空気になる。
でもその空気を嫌とは思わなくて、その静けささえ居心地が良く感じるから不思議。

コーヒーを飲む目の前の彼をじーっと見つめる。
この子もあと5年くらいしたら立派な大人になって、優作さんに負けず劣らずな紳士様になるんだろう。
…あぁ、でも工藤君ヘタレだから、まだまだジェントルマン優作さんには敵わないんだろうな。




「…オメーさぁ、」

『ん?』

「頭撫でられんの好きなのか?」

『……はい?』

「さっき父さんに頭撫でられてた時…すげー嬉しそうな顔して頬染めてたから」

『……』



頬染めてました私?
そんな自覚は無かったんだけど無意識だったのかな?
でも優作さんにあんな素敵な笑顔で微笑まれてなでなでしてもらっちゃったら誰でも顔を赤くしちゃうと思うんだ。
それで赤くならない人がいたら女の子じゃないね!



『頭撫でられるのは好きだよ』

「…父さんの事は?」

『好きだよ?……あ、そっか、そういう事か!』

「…?」



工藤君がそんな事を聞いて来る理由が分かった。
分かって納得して、ハテナを飛ばしている工藤君を見て笑う。
何だ、高校生探偵なんて事をしているけれどやっぱり年相応の子供だもんね。



『大丈夫だよー!優作さんには有希子さんがいるし、優作さんを取ろうなんて思ってないから』

「は?何でそうなるんだよ!」

『え?違うの?てっきり、お父さんを取られそうな息子の嫉妬だと思ったんだけど』

「……ほんっとオメーってさぁ、鈍感っつーか天然っつーか」

『…それ工藤君に言われたくないよ』



というより私は鈍感でも天然でもないです!
工藤君なんか探偵として推理してる時はズバ抜けて鋭いのに、自分の事になると途端に判断力が鈍くなったりするんだから。

ぶつぶつと何かを言っている工藤君を見る。


この世界で無くしたくないと思う人。
きっとたくさん出来ると思う。

その人達を無くさない為に、心配をかけない為に私自身も強くなろうと思った。

prev / next

[ back to top ]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -