プレゼントはチケット
可哀そうな目を少しでも治そうと冷えたタオルを目に当てている。
ひんやりとしたタオルが冷たくて気持ち良い。
学校へ行くまでには治っているだろうから大丈夫だよね。
そんな私の隣のソファに有希子さんが嬉しそうに座った。
「ねぇ、名前ちゃん!遊園地好き?」
『え?遊園地?』
「そう!チケットがあるのよ。それでね、新ちゃんと一緒に行って来ない?」
嬉しそうに、というよりはニヤニヤという言葉が合いそうな有希子さんの人差し指と中指に挟まれた2枚のチケット。
リビングの椅子では工藤さん…あ間違えた、優作さん。
朝起きて工藤さん、おはようございます。と言ったら優作で良いよと言われたから遠慮なく呼ばせてもらっている。
その際、有希子さんにはお母さんって呼んでも良いからね!なんて言われたけど何となく気恥ずかしさがあって今まで通り有希子さんなんだけどね。
『遊園地かぁ……でも私、こんな顔だし』
昨日、散々泣いた所為なのか瞼は重く腫れぼったい無残な顔になっている。
さっき鏡で見て思わず声を上げてしまいそうになったくらい。
「大丈夫よ!メイクは私がやってあげるから」
『……うーん』
「まだ行った事無いでしょ?トロピカルランド」
『トロピカルランド!?』
さっきまで渋っている感じだった私が、身を乗り出して目を輝かせているから流石の有希子さんも驚いたらしい。
目を可愛くキョトンとさせている。
というよりっ……トロピカルランドですとな!?
あの!あのトロピカルランド!
時々やるCMを見る度に行きたくてしょうがなかった場所!
「たまの息抜きに良いんじゃないか?名前君にはいつも息子がお世話になっているし、そのチケットは俺達のプレゼントでもあるんだ」
優作さんが読んでいた新聞を折り畳んでコーヒーを一口飲んで微笑む。
その姿さえ優雅で目を奪われそうになるけど、それよりも私の頭はトロピカルランドでいっぱいだった。
『ありがとうございます有希子さん、優作さん!工藤くーん!起きてっ工藤君!』
バタバタと階段を駆け上がる私を工藤夫妻が顔を見合わせて笑っていたなんて、ウッキウキの私には分からなかった。
「……やはり笑っていた方が可愛いな」
「そうね。出迎えてくれた時のあの子の顔…随分無理してる様だったから。名前ちゃんは笑顔が一番素敵だもの」
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