サプライズ帰宅
クッションを腕に抱いてベッドの上でボーっとする。
最近の私は一人でいる時…ずっとこんな感じ。
学校では普段通りを装っているけど、一人になると途端に怖くなる。
自分が何者なのか、私は本当に…私なのか。
夜が明ければ元の世界に戻っているんじゃないかって淡い期待をしているけれど、目覚めても慣れて来た工藤邸の天井が映るだけ。
憧れていた毎日。
憧れていた世界の筈なのに……何でこんなに悲しくて、こんなに元の世界が恋しくなるんだろう。
クッションを強く抱き締めて顔を埋めた。
「名前ちゃーん!新ちゃーん!」
玄関が開く音がして聞こえて来る36歳とはとても思えない可愛らしい声。
この間、外国に帰ったばかりの有希子さんの声がしてこのままじゃいけないとクッションを放って部屋から出た。
帰って来るなんて言ってかな…?
『え……?』
玄関に行くと、有希子さんの隣に殿方。
…優美な笑顔で微笑みかけて来る紳士なハンサム様は誰でしょう?
答えは一つ。
「君が名前君だね。有希子から話は聞いているよ。工藤優作、新一の父だ」
『あっ……名字名前です。工藤君には大変お世話になっていて、お父様にもいつか御礼をさせていただきたいと思っていたのですが…何の用意もしていなくて、申し訳ありません』
「いや、気にしないでくれ」
工藤君に助けられたお陰で此処にいられる、有希子さんの優しさで此処に住まわせていただいている。
この一家の大黒柱である工藤優作さんには一度会って御礼を言わなきゃと思っていたのに、何も用意出来なかった事が悔しい。
下を向いてしまう私の頭に工藤さんの手が乗った瞬間に、お父さんを、思い出してしまった。
この二人といると思い出してしまう。
声も、顔も、体格も、何もかも違うのに温もりだけは一緒で。
顔を上げて見た工藤夫妻の笑顔が、思い返す両親の笑顔と重なった。
「帰って来るなら一言で良いから連絡寄こせって言っただろ!」
ドタバタと上階から降りて来た工藤君の足音に意識をやって、無理やり涙を引っ込めた。
それと共に表情を作って。
「いや、予定より早く仕事が片付いたから名前君に挨拶がてら帰国しようと思ってね。急だったから連絡を入れる暇が無かったんだよ」
「…一言メールするだけじゃねーか」
「だってサプライズで帰った方が新ちゃん嬉しいでしょ!」
「嬉しかねー!」
『それじゃあ私、コーヒーでも淹れて来ますね』
「……」
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