運命の人 | ナノ


貼り付けた仮面



チョコレートを片手に工藤邸に到着した私は一目散に自室に駆け込む。
あれから妃さんとの話を進めていると蘭と園子が帰って来たから話を止めた。

あの後は…何をしたかも余り覚えてない。ただ持って帰って来ているチョコレートを見ると、一応チョコは作れたみたいだけど。



妃さんから聞いた事実は、私の心を粉々に打ち砕いた。
私の家族は………交通事故死じゃないかもしれないという話。
逆向性健忘だった私。私に会ったと言う妃さんの言葉。
どういう事なのか全く分からない。

本の内容も映画の内容も全てを覚えている訳じゃないけれど、確かにこの世界の知識は私の頭の中にある。
でも前にあった…元の世界の、それもトリップしてくる直前の記憶を思い出そうとすると痛む頭。
思い出す事をしようとすると拒絶しようとする様な現象。
私はトリップしてきたんだよね…?



分からない。
自分が………分からないよ。






「帰って来たのか?」



ノックをする工藤君の声が響いてハッとする。
…これ以上、工藤君に心配も迷惑もかける訳にはいかない。
ふぅ、と息を吐いて心を落ち着かせて扉を開けた。




『ただいま、工藤君!何も言わずに部屋に戻っちゃってごめんね』

「……」



自分の顔に仮面を付ける様に笑顔を貼り付けた。
大丈夫、こんなの慣れてるもの。
会社でこんな顔ずっとしてたし、……あれ?してたよね?
セクハラしてくる上司に笑顔を向けたり、愛想笑いしたり…。



『……っ』

「…おい、オメー」

『…あっそうだ!ちょっと早いけどこれチョコレート。コーヒーと一緒に摘まんで下さいな。それじゃあ私、宿題やってなかったからやるねー』

「ちょっ…!」




有無を言わせずに扉を閉めた。
工藤君が何か言いたそうにしていたけど見て見ぬフリ。



背中を扉につけたまま、ずるずると座り込む。
頬を伝う涙が煩わしくて仕方なかった。
まだ扉の所に工藤君がいる気配がしたから、声を押し殺した。

……自分が分からないよ。
誰か、助けて…お父さん…お母さん…。

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