名探偵との出会い
何の変哲もない普通の生活。
朝起きて会社へ行って仕事をして帰って来てご飯を食べて寝るだけ。変化のない毎日に飽き飽きして来ていた。他の人とは違う何かを感じたい。
そんな事を毎日考えていたからだろうか、こんな事になったのは。
『……どこ?ここ』
目の前に広がるのは見覚えのない風景。思考が追い付かずにその位置から根が生えた様に動く事が出来ない。
右に視線をやると私の近所では絶対に見た事がない様な豪邸。…どんなお金持ちさんが住んでらっしゃるんだろう。表札を見てみると「工藤」と書かれていた。工藤さんか…余計分からない。私の近所に工藤さんはいなかった筈。じゃあ…?
考えても考えても分からなくなった結果、取り敢えず現在地を調べて家に帰ろう。という考えに至りキョロキョロと辺りを見回す。
「…俺の家の前で何やってんだ」
『え?』
聞いた事のある声。けれど身近で聞く声じゃなく、画面越しに聞いた事のある特徴的な声音。その素敵な声に惹かれて振り返った私の目に飛び込んで来たのは、青い制服を着た男の子の姿。
『………そんな…まさ、か』
「……」
『工藤…新一?』
警戒する様に細められていた目が名前を呼ばれて少しだけ見開かれた。ああ、じゃあやっぱりそういう事なんだろうか。
大豪邸に書かれている表札の「工藤」という文字。その家に入ろうとしている青い制服に勝平さんボイスのイケメン男の子。難しく考えなくてもその物語を知っていればすぐに糸が繋がる。
この子は……工藤新一。
その考えに至って余計に訳が分からなくなった。これは夢なのだろうか?そう思って古典的な方法で頬を抓ってみたけれど何故か痛かった。夢なら覚めるのに、覚めない。それじゃあ…これは?所謂……トリップというものをしてしまったの?
「……用がねぇんならそこどいてくんね?家に入れないから」
『あ、あぁのっ!』
「…は?」
回らない頭にどうしようもないくらい動揺しきっていたからなのか声が裏返った。何て事……。頭を抱えたい気分になったけどこの出会いを逃す訳にいかない。だってこの世界で知り合いなんて…きっといない。
『…高校生探偵の…工藤新一さんですよね?相談……いえ、依頼をしたいんです』
「………依頼?」
突然の日常から逸脱した現象。
眼前にある不安要素よりも…私は呑気に胸を躍らせていた。
あの飽き飽きした生活から抜け出している。これからどうしようか。
まずは…このイケメン探偵に自分の状況を説明する事から始めなきゃいけないよね。
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